できる人ができる範囲で。周りの家庭に想像力を持つ

―― 貧困の解消に向けて、私たちにできる具体的な取り組みはありますか。

阿部 フードバンクへの協力や募金、ふるさと納税を通じて子ども食堂に寄付できる仕組みなどがあります。ただ忘れてはならないのは、貧困をなくすというのは、社会をどうするのかという問題です。東日本大震災でも多くの物資が集まりましたが、中には明らかに「自分では使わない物を、困っている人に分けてあげる」という上から目線のものもありました。「お情け」で社会は変わりません。

―― 地域コミュニティの中にも貧困家庭が隠れている可能性があります。私たちはどのようにすべきでしょうか。

阿部 地域で「貧しい子探し」をする必要はありません。探されてしまった親子が、つらい思いをするだけですので、個別の支援はプロに任せた方がいいと思います。

 ただ、多くの日本人は一億総中流社会の名残りで、周囲の人はみんな、自分と同程度の生活水準だと思い込みがちです。ママ友の集まりでも1000円のお茶代を払う余裕は誰にもあり、本来任意加入であるはずのPTA役員も、全員務めるのが当然と考えてしまう。1000円払うとお米が買えなくなるかもしれない、無理にPTA役員を務めると、仕事を休むことになり生活費を十分稼げなくなるかもしれないといった想像力にはなかなか至りません。

 周りの人の生活は、自分と同じとは限らない、という意識を持つことが大事です。そうすれば自然に、ママ友との食事会で「みんなが同じだけの料理を持ち寄ろう」といった考えではなく、「できる人ができる範囲でやればいい」という考えになるはず。PTAの役員選びでも「本来任意加入であるし、全員が務める必要はないんじゃないですか?」といった言葉も出やすくなるのではないでしょうか。

取材・文/有馬知子 イメージ画像/鈴木愛子

阿部彩
東京都立大学教授。専門は貧困・格差論、社会保障論、社会政策。著書に、『子どもの貧困』(2008年)、『子どもの貧困II』(2014年)(共に岩波新書)、『子どもの貧困と食格差-お腹いっぱい食べさせたい-』(2018年、共著、大月書店)など。厚生労働省、内閣府などの各種委員を歴任、2011年より厚生労働省社会保障審議会臨時委員(生活保護基準部会)。