菅義偉首相が、CO2を中心とした温暖化ガス(温室効果ガス)の排出を全体としてゼロにすることを表明し、「脱炭素(カーボンニュートラル)」という概念がにわかに注目を集めている。「脱炭素社会」実現の目標は2050年まで。しかし今、私たちの身の回りは、化石燃料で発電した電気、自動車を走らせるガソリン、産業の中枢を担う鉄製品、セメントやプラスチック製品など、ほとんどがその製造過程や利用でCO2の排出を伴うものばかり。脱炭素社会は、本当に実現できるのだろうか。かつて官僚として科学技術政策に携わり、現在は国際環境経済研究所主席研究員として、脱炭素社会への道筋を研究する塩沢文朗さんに聞いた。

欧州で変わる認識、「看板政策」で後を追う日本

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 地球には現在、約76億人が暮らしている。過去50年で倍以上に増え、人間が排出する温暖化ガスも急増した。その結果、地球温暖化が進んで干ばつや砂漠化を引き起こし、生態系に影響を与えている。また、多くの人道支援団体が、気候変動で食料価格の高騰などを招き、発展途上国の飢餓や貧困を深刻化させているとも指摘している。

 2015年、温暖化ガス排出削減に取り組むための国際的な枠組みである「パリ協定」が採択され、日本も参加。協定を離脱していた米国もバイデン大統領の就任後、復帰を表明している。

 「欧州はパリ協定を機に、大きく潮目が変わりました。『脱炭素は困難であり、できるわけがないと思考停止していた状態から、実現できる確証はないができるだけやってみよう』と、マインドセットが変わったのです。これにより再生可能エネルギーの活用や、CO2を吸収する技術の開発が加速。ESG投資の資金が流れ込み、大手企業も脱炭素に本気で取り組まざるを得なくなりました。欧州に比べて関心の薄かった日本ですが、現政権が『看板政策』として脱炭素社会の実現を掲げたのは明るい材料です」

 「『できるわけがない』と『できるだけやってみよう』は大きく違います」と、塩沢さんは力を込める。マインドチェンジこそが原点。日本でも今後5年程で、エネルギー分野は大きく変化するのかもしれない。