従来の教育に変化の波を起こそうとしている人たちは、今どんな点を課題と捉え、何を変えたいと思っているのか――。インタビューを通じて、教育の問題点や理想の姿を探るリレー連載。モルガン・スタンレー・ジャパン(当時)や、米ゴールドマン・サックスなどで勤務後、専業主婦を経て、長野県白馬村に2022年秋から白馬インターナショナルスクール(HIS)を開校予定の草本朋子さんに、前編に続き、白馬に学校をつくろうと思った理由、今の日本の教育の課題、家庭でも心がけられることなどについて聞きました。

<草本朋子さん>
【前編】勉強が必要な理由を子に「腹落ち」させるのは大人の責任
【後編】自分の提案で大人を変えた体験を持つ子は強い ←今回はココ

意思決定する大人たちの前で発表することの意味

 2022年秋に、長野県白馬村に中高一貫の白馬インターナショナルスクール(HIS、初年度は中1と中2にあたる学年のみ募集予定)を開校予定の草本朋子さん(詳細は前編「勉強が必要な理由を子に『腹落ち』させるのは大人の責任」参照)。開校に先立ち、2016年から白馬村で10~15歳を対象に、約1週間の短期的なサマースクールプログラムを実施してきました。

 「例えば、子どもたちに自分で水力発電機を設計してもらって作り、川で実際に発電をして、発電量を競うといったカリキュラムを設けました。また、2021年の夏は、『白馬をより良くするために何が必要か』をテーマに現地調査をしてもらって、先生たちに世界の進んだ取り組み例などを見せてもらいつつ、そこから自分たちが理解したことを活用して、白馬では何をすればいいかを考えてもらいました」

 参加した子どもたちに、「あなたたちがどう思っているかを考えて発表してほしい」と問うと、「どこを見たら正解が分かりますか」という反応が返ってくることも少なくないと言います。「自分たちの意見がユニークなものなのに、それを発表することに意味があるというふうに思えない子がいることを感じています。それはその子が悪いのではなく、そう思わせるように大人がつくった社会がよくないわけです。子どもは、そのシステムの中で『いい成績を取らなきゃ』と頑張ってきただけです」

 小学生時代などに、常に正解がある学びにしか触れていないと、染みついた受け身の姿勢は変えられないのでしょうか。

 「子どもは可塑性が高いので、後で伸ばすことはできると思います。サマースクールでは、子どもたちに地図とコンパスを持ってエリア内を歩き回ってもらい、この場所で2030年にSDGsが達成されているためには何をしたらいいかを考えて発表してもらいました。発表を聞くのは、そのエリアでスキー場を運営する企業の社長と、村会議員2人、不動産開発企業の社長です。

 『意思決定する大人に聞いてもらえるなら、自分のアイデアが取り入れられるかもしれない』とワクワクしてくれる子と、『そんな人に意見を言ってどうするの?』とフリーズする子に分かれます。でも、フリーズした子たちも、自分たちがしたプレゼンに対して、意思決定する立場の大人がメモを取りながら一生懸命聞いてくれて、『自分たちには考えつかないことだから、早速今日から考えてみます。ありがとう』などと感想を言ってくれると、本当にうれしそうにします」

 サマースクールには、特定のキャンパスを持たないなどのユニークな取り組みで世界の注目を集める、ミネルバ大学の学生もメンターとして参加しています。「ミネルバ大学の学生は本当に優秀で、『大学生はかっこいい』『新たな目標ができました』という声が子どもたちから上がりました」

 サマースクールに昨年参加した、ある有名私立進学校に通う子の変化が印象的だったと草本さんは言います。

水力発電機を作り、川で実際に発電をしたサマースクールの模様
水力発電機を作り、川で実際に発電をしたサマースクールの模様