教育の問題点や理想の姿を探るリレー連載。ご登場いただくのは、教育YouTuberとして、授業動画を配信している「葉一(はいち)」さん。「経済的な理由で、教育の選択肢が奪われる子どもがいる現状が受け入れられない」と、順調だった塾講師を辞めてしまいます。後編では、YouTuberの活動が軌道に乗るまでの苦労や、今注力している「子どものメンタルヘルス」の問題などについて、聞いていきます。

<葉一さん>
【前編】葉一「中学の勉強が人生決める」からすべてを動画に
【後編】葉一「教育はお金かけるもの」という常識を破りたい ←今回はココ

投げつけられた「偽善者」という言葉

 経済的な理由によって塾をやめざるを得ない子どもがいる現実に直面し、子どもから教育の選択肢が奪われる現状を見過ごせない、と順調だった塾講師の仕事を辞めた葉一さん。とはいえ、すぐに画期的なアイデアが見つかることもなく、悩みながら過ごしていました。そして塾を辞めて数カ月がたった頃、授業動画をYouTubeに公開することを思い付きます。

 「YouTubeを始めた2012年は、ちょうどHIKAKINさんが注目され始めた頃です。YouTubeは今ほどメジャーではなかったのですが、私は結構好きで見ていたんです。いつものように動画を楽しんでいるとき、ふと、『あれ、今これ、タダで見てるな』って気づいたんです。『だったら授業を動画にして公開したら、子どもたちもタダで見られるのでは…?』と。すぐにホワイトボードを持っている知人に連絡して車で2時間かけて取りに行って、板書をつくって撮影して。次の日には1本目を投稿していました。もともと自分は慎重派で、石橋をたたきすぎてやらない選択をしてしまうタイプだという自覚があったので、とにかく時間をおかず、勢いで公開してしまおうと動きました」

 当時、YouTubeに広告を載せられるということを知らなかった葉一さんは、広告収入がないまま1年ほど動画を配信し続けていたそう。そのうち活動が知られるようになって、講演会や本を書かせてもらって収入を確保できればいいなと思っていたといいます。

 「自分の収入をどうするかより、『お金をかけるもの』と考えられていた教育の世界をひっくり返せるかもしれないという期待でウキウキしていました。理想をかなえたくてもどうすればいいかわからない状況がずっと続いていたので、やっと行動に移せることが見つかったことがうれしくて。絶対にYouTubeで教育を変えようとやる気に満ちあふれていました」

 ところが葉一さんの元に届いたのは、喜びの声ではなく、大人からの誹謗(ひぼう)中傷だったそうです。

 「『教育に携わるものだが』という書き出しから始まって、叱咤(しった)激励の『激励』がない長文メールをもらったり、お金目的と思われたのか、『守銭奴』と言われたり。一番多く投げつけられた言葉は『偽善者』でしたね。つらかったです。けれども、塾業界の方らしき人から『俺らの仕事をどうしてくれるんだ』と言われたときは、『映像授業に負けるような授業しかできない塾なんて、廃れてしまえ!』と憤りました。対面の塾であれば、子どもたちの表情がすぐそこに見えるというアドバンテージがあるのに、映像授業に負けるなんてあり得ないじゃないですか」

 そうやって何とか自分を奮い立たせていたものの、何度も心が折れかけ、毎日のように「やめようかな」と思っていたそうです。けれどもそこで踏みとどまったのは、「まだ子どもたちに届いてない」という思いがあったからでした。

 「文面から察するに、非難しているのは社会人の方たちで、子どもたちではありませんでした。動画を見てくれた子どもから『あなたの動画は役に立たない』と言われたなら、未練なくやめられる。でも、まだ子どもからジャッジが下されてない段階でやめてしまうのは、筋が通っていないんじゃないかと自分に言い聞かせていました。そうするうちに少しずつ、子どもたちからポジティブなコメントが届くようになったんです。登録者数も徐々に増えてきて、『あなたのやってることは間違ってないよ』って、子どもたちに背中を押してもらいながら何とか続けてこれました」

 中学校の5教科すべての動画を公開できたのは、YouTubeを始めて7年がたった頃でした。

板書案を作るのに2時間以上かかることも
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