教育の問題点や理想の姿を探るリレー連載。今回、ご登場いただくのは、教育YouTuberとして、授業動画を配信している「葉一(はいち)」さん。チャンネル登録者数は182万人、公開動画数は4000本を超え、コメント欄には子どもたちからの感謝の声が並びます。前編では、「大人、特に教師が大嫌いで、教育業に携わるなんて考えたこともなかった」という葉一さんが教育に興味を持った理由や、動画制作にかける思いを聞きました。

<葉一さん>
【前編】葉一「中学の勉強が人生決める」からすべてを動画に ←今回はココ
【後編】葉一「教育はお金かけるもの」という常識を破りたい

「教科書の最初から最後まで」にこだわる理由は

 YouTubeのチャンネル「とある男が授業をしてみた」で、小学校から高校までの授業動画を配信している教育YouTuberの葉一さん。チャンネル登録者数は182万人、公開動画数は4000本を超え、メインとなる授業動画のコメント欄には、「とても分かりやすく、学校のテストの順位が上がりました」「不登校だけど、動画のおかげで勉強を進められました」など、子どもからの感謝の声が並んでいます。動画では実際の授業と同じように、ホワイトボードを使いながら葉一さんが教えていきます。YouTubeにありがちな派手な演出や編集は一切ありません。そこには、「勉強が苦手な子にも届くよう、人間味の伝わる血の通った授業にしたい」という思いがあるそうです。

 YouTubeで公開している授業動画は、中学生向けの主要5科目のほか、小3~小6の算数と高校数学があり、ほぼ全ての単元をカバーしています。効率的にアクセス数を伸ばすことを考えたら、つまずきやすい箇所だけを動画にするという選択肢もあったはず。けれども葉一さんは、「学校で習う内容すべてを、自分の動画だけで学べるようにしたい」という思いから、抜け漏れのないよう、教科書の最初から最後までを動画にするというポリシーを貫いているといいます。実際、葉一さんの動画の視聴者には、学校に通えず、勉強の遅れに不安を持つ不登校の子どもたちも多いそうです。

 また、より需要が多い中学受験や大学受験用の動画ではなく、中学生向けの動画を最も充実させていることにも理由があります。

 「YouTuberとして数字を取るためであれば、高校生か、中学受験を考えている小学生をターゲットにしたほうがいいんです。けれども、地方も含めて日本全国を見たら、中学受験をする子どもはごく一部。『高校受験が人生で初めての受験』という子がほとんどですよね。つまり中学時代の学習状況が、その後の人生の方向性をある程度決めてしまうと思ってるんです。だからこそ、私は中学生を一番支えたいんです」

 葉一さんがYouTuberとして活動を始めたのは、今から10年前の2012年でした。その頃のYouTubeはまだマイナーな存在で、著作権を侵害した動画がアップされるなどいわば無法地帯だったそうです。あまりイメージのよくないYouTubeに教育系動画を公開したことで、葉一さんは誹謗(ひぼう)中傷を受け、何度も心が折れそうになったといいます。

 それでも動画を公開し続けた葉一さん、そこにはどんな思いがあるのか、またそもそもなぜ葉一さんは教育YouTuberになったのか。学生時代にまで遡り、話を聞きました。

何回も見る子がいることを見据え、雑談は入れない
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