教育の問題点や理想の姿を探るリレー連載。今回取材したのは、福岡市にある人気学習塾「唐人町寺子屋」の鳥羽和久さん(寺子屋ネット福岡代表取締役)です。塾長、そして単位制高校の校長という立場で、20年以上さまざまな小中高校生の親子に関わり、ときに生徒の指導方針をめぐり親とぶつかることもあったという鳥羽さん。前編では塾で大切にしていることや、「学校と自身に希望を見いだせなかった」鳥羽少年が塾を開くまでの経緯などを聞きました。

成績の良しあしに関係なく、その子の優れたところを伝え続ける

 福岡市にある「唐人町寺子屋」は、小学生から高校生まで150人以上が通う学習塾。塾長である鳥羽和久さんが大学院在学中の2002年に開校し、今では口コミのほか、著書やブログがきっかけで入塾希望者が増え、新年度の入塾申し込みが数分で埋まってしまうそうです。

 塾では、子どもを飽きさせないよう、明確な時間割がありません。また、鳥羽さんが選んだ評論文や文学作品を読み解く国語塾や、高校生が意見をぶつけあう哲学対話のクラスを設けたり、九州・山口の景勝地や文化施設などをめぐりながらその土地と交わる課外授業を行ったりと、独自の取り組みを行っています。塾の1階には書店「とらきつね」を開いて各種イベントを企画、地域の人や教室に通う子どもたちが多様な世界に触れられる場をつくっています。一方、進学塾としても信頼を集めており、塾生の中から福岡県の公立トップ校に進学する子も数多くいます。

 塾を開いて21年、鳥羽さんは塾を運営する上で、ずっと意識してきたことがあると話します。

 「一般的な塾では、勉強ができる子ほどエライというヒエラルキー(階層)が当然視されがちで、それを全く疑っていない親子が多いのは大問題だと感じています。私はそこに絶対にあらがいたい、絶対に嫌なんですよ。

 勉強を頑張って結果を出した子たちは、しっかり褒めるし調子に乗せます。だけど、点数が取れたからといって人間自体がエライわけではない、勉強ができるという1本だけで子どもたちの価値観をつくらないように、他にもたくさん価値観のラインがあると提示することは、かなり意識しています。ただし、直接そんな話をするのではなくて、授業や日ごろ話すときの端々にちょっと入れる程度。それでも子どもたちには少しずつ確実に伝わっているところがあると感じます」

 一方で、進学塾の仕事はあくまで生徒の学力を向上させることが第一義という考えから、現実的な受験指導にも力を入れています。塾に集まってくるのは、成績という現実に目を向けながらも、狭い価値観で育ってほしくないという、いい意味で欲張りな親子。学校の先生の子どもも多いそうです。

 「もちろん大半の親子は受験合格や成績アップのために来ているので、三者面談などでは偏差値をもとに、あなたの成績ならこのくらいという現実はハッキリ伝えています。また、基本的に私は小中学生全員の全教科の指導に携わっているから、どの科目のどの単元で成績が取れないのか、それがなぜかをしっかり分析して、高い解像度で伝えます。

 同時に、それぞれの生徒に能力のでこぼこがあるのはある意味あたりまえのことなので、そういう子どもたちには『あなたは筆記になると厳しいけど、その手前のここまではできている』とか、『英語が苦手のようで、実は聞く力はすごい』『学校の勉強は苦手でも、違うアプローチをすれば勉強自体は苦手じゃない』などとフォローをします。成績が振るわない子が根本的な自信を失わないように、その子の優れたところを常に具体的に伝えています。性格や考え方、趣味、言葉づかい、人の見方など、どの子にもそれぞれ面白さがあるんですよ」

次ページから読める内容

  • きれいごとばかりの大人を信用しなかった子ども時代
  • 親も子もお客様ではなく、人と人との関係

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