教育の問題点や理想の姿を探るリレー連載。ご登場いただくのは、「地域をキャンパスに、日本を巡りながら学ぶ」をコンセプトとする「さとのば大学」の発起人・信岡良亮さん(アスノオト代表取締役)。社会が変わりつつある中、日本の従来の「大学時代」のあり方について「もったいない」と指摘する信岡さんに、今回の前編では、大学の価値や、信岡さんが目指す大学とその学びの姿などについて聞いていきます。

<信岡良亮さん>
【前編】大学の価値を再考し、「日本版ミネルバ大学」を設立 ←今回はココ
【後編】「消費的快楽」よりも「創造的快楽」を楽しめる子に

各地を巡りながら学ぶ大学

 特定のキャンパスを持たず、各国を巡って学ぶ大学として「ミネルバ大学」が知られていますが、日本にも国内各地を巡りながら学ぶ、珍しい「大学」があります。「学生は日本各地にある提携先の地域に1年間ずつ留学して共同生活をします。4年間で4カ所の地域で学ぶことになります」。発起人である信岡良亮さんは言います。

 信岡さんは、「地域を旅する4年制大学をつくりたい」と、「さとのば大学設立準備プロジェクト」を掲げて2018年にクラウドファンディングにチャレンジ。約1千万円を集めました。市民大学として2019年から「さとのば大学」を開始し、新潟産業大学がつくっている4年制の通信制教育課程「ネットの大学 managara」とのダブルスクールで学ぶことで4年間の課程を終えると大学卒業資格も得られる「さとまなプログラム」が2021年4月スタートしました。

 もともと「大学を変えたい」と考えていたわけではなく、今の日本社会に危機感を覚え、社会を変える手段として学びや共創の場が必要だと考え、「大学」を作ることに至ったという信岡さん(そこまでの経緯は後編で説明します)。

 「思い切った言い方をすれば、文系人材の8割は特に大学で学んでいないのではないでしょうか。少なくとも私自身は、楽な単位をどれだけ簡単に取って、空いた時間に何をするか、が主な過ごし方でした。

 1学年の人数が約100万人として、5~6割が大学に進学すると言われているので、50~60万人くらいが大学のシステムに入っているとして、その4年間ががっぽり学びの時間になっていないとすれば、とてももったいないですよね。

 それで結果的にみんなが幸せならいいですが、日本の平均賃金は実質的に低迷し続けているので、今のシステムを続けていくと基本的に日本全体は貧困化するという未来に向かっていると考えています。40代でリストラされたらその後どうなるかについて誰も保証してくれないのに、とりあえず新卒で就職できるかという点だけが心配の種になっている。

 新卒一括採用就職の門をたたくためだけに4年間を使って、高い学費を投資しているとも言えます。時間については、4年間だけでなく、さらに大学受験のための準備期間としての高校3年間も含めるとかなり長い時間を費やしています」

 大学を視野に入れて、小学校受験や中学校受験を検討する親も少なくありません。教育の多様化が進む今の世の中で、大学をどう定義すればいいかは、親にとっても悩ましい問題です。

 「大学にはいくつかの要素があると考えています」