育休は組織全体が強くなるチャンス。若手育成の機会にも

 続いて山口さんが社員が育休を取ることは組織にとってどのようなメリットがあるかを解説。育休が取れる企業は採用市場で有利なことや、優秀な従業員の離職防止になること、引き継ぎのための業務の棚卸しは組織が強くなるチャンスになることを紹介します。

山口 育休を取るためには、業務を引き継ぐために、自分の業務を棚卸しする必要があります。その中で優先度の低い業務を整理すれば組織全体の生産性が上がります。一部の仕事を後輩に任せることで、若手が育つチャンスにもなります。

 3回の育休を経験した溝川さんは、業務の引き継ぎについて次のようにアドバイスします。

溝川 育休を取ると決まったら、すぐに業務の引き継ぎ準備を始めたほうがいいです。というのも、自分の業務をリストアップして、引き継いでくれる人に教えて、任せられるくらい習熟するには、意外と時間がかかるからです。日々の業務以外に+αで引き継ぎ準備をするのは負担と感じるかも知れません。しかし、チームにとって必要な時間だと考えて、私も意識的に時間を取るようにしていました。

ワーキングペアレンツにとってのおすすめ制度

 続いて、高橋さんがアクセンチュア独自のワーキング・ペアレンツ支援プログラムについて解説。復職者本人と各組織にいるワーキングペアレンツサポーター、配属に関わるリード(一般企業での部門長に相当する役職)の3者がキャリアとライフの両面で対話をすることを重視しており、復職直後から1年間、定期的に面談を行うことで復職者の不安が解消され、働きやすさにつながることを説明しました。

 溝川さんはアクセンチュアの先進的フレキシブルワークの内容を紹介。フレキシブルな勤務制度やリモートワーク環境の促進、週3日、20時間以上から利用できる短日・短時間勤務制度などによって、場所や時間に縛られない効率的な働き方が可能になっていることを話しました。

 育休取得促進や復職者への支援制度の取り組みは各社で進んでいます。共働きにとって働きやすさが増しているといえますが、その半面、気をつけた方がいいこともあると山口さんは注意を促します。

山口 時短などの両立支援制度はかえってワーキングペアレンツをキャリアから遠ざける可能性があります。例えば会社に時短制度があると、「いざというときの保険で」と気軽に利用するかもしれません。しかし、時短で働くと必然的に可能な仕事量が少なくなります。会社や職種によっては、あるポジションにつくには一定量の仕事量を経験していることが条件になることがあります。すると希望のポジションに就けない可能性も出てくるのです。

 時短制度を活用するのは悪いことではありません。それと共に、自分がどのようなワーク・ライフ・バランスのもとに働きたいか、長期的に見てどのようなキャリアプランを描いているかを考えることも必要でしょう。


溝川 今は働く親への助言が色々なところで得られますが、ワーキングペアレンツの過ごし方は、自身や配偶者、子どもの性格、仕事の性質などいろいろな要素に影響されます。アドバイスが自分にぴったり当てはまるとは限りません。場合によっては自分たちで考えてカスタマイズすることで、最適な両立の形が見つかるのではと思います。

高橋 ワーキングペアレンツになってからの1年で重要だと思ったことが2つあります。1つ目は自分のタスクを棚卸しして、優先順位を見極めながら仕事をすること。2つ目は仕事を全うするためには周りのサポートが不可欠だと認識することです。それにはコミュニケーションを取りながら信頼関係を構築していくことが必要になります。私もまだ発展途上ですが、この2つを大切にしながら、ワークスタイルを確立していきたいと思っています。

 最後に溝川さん、高橋さんがワーキングペアレンツをエンパワメントするメッセージを発信。セミナーは修了しました。

セミナー登壇者。右からアクセンチュアの大河原久子さん、高橋扇香さん、溝川貴大さん。東京大学経済学部教授の山口慎太郎さん。ファシリテーターの日経xwoman編集委員 羽生祥子
セミナー登壇者。右からアクセンチュアの大河原久子さん、高橋扇香さん、溝川貴大さん。東京大学経済学部教授の山口慎太郎さん。ファシリテーターの日経xwoman編集委員 羽生祥子

取材・文/福本千秋 撮影/辺見真也

アクセンチュアのインクルージョン&ダイバーシティの取り組みについてはこちら