その学校で本当に大丈夫?

―― 「勉強をしなさい」は、悪影響だということですね。でも、やるべきことが膨大な中学受験、子どもだけに任せても大丈夫なのでしょうか?

高濱 小学生の子どもにすべてを任せるのは難しいと思います。勉強には2種類あって、一つは漢字や計算といった基礎処理力をつける勉強、もう一つは問題に向かって自分なりに試行錯誤する力をつける勉強です。後者のベースになるのは幼少期の熱中力です。遊びを通じて培った集中力や忍耐力、思考力などがここで生きてきます

 一方、基礎処理力は必ずやらなければいけないものとして淡々とやっていくしかありません。ここをおろそかにしてしまうと、勉強を得意にすることができません。漢字や計算などは朝起きたらやるといったように、習慣づけてしまった方がいい。習慣にしてしまえば、歯磨きのように、「しないとなんか気持ちが悪い」という状態になります。

西村 その習慣は低学年から身に付けておかなければならない。それは親の大事な役割だと思います。中学受験をするなら、親が勉強を教えなければならないと思っているかもしれませんが、私は必ずしも親が教える必要はないと思っています。

―― では、中学受験における親の役割は何ですか?

高濱 いろいろあると思います。例えば、まだ子どもだから学習管理は親がした方がいいと思う。そうでないと、好きな科目しかやらなくなってしまうから。マストのところはやっぱりきちんと押さえなければいけない。

 べったり横について教える必要はないけれど、社会なんかはお母さんが「群馬県の県庁所在地は?」とクイズみたいに聞いてあげると、子どもは乗ってくる。「この漢字、間違っているよ」と指摘してあげるのはいいけれど、思考系の問題や文章題の問題で親が口出しをすると、大抵うまくいかない。「なんで分からないの?」とガミガミ言って、子どものやる気をそいでしまう。

西村 親が勉強を教えると、どうしても感情が先に出てしまうんですよね。私も経験があるので分かります(笑)。だから、勉強で困っていたら、塾の先生に質問をするなど第三者の力を借りる方がいい。そこを親が頑張る必要はない。

高濱 私は中学受験における親の役割で大事なのは、学校選びだと思っています。なぜ中学受験をするのかといえば、行かせたい学校があるからですよね。でも、たくさんの学校があるから、親も迷うわけです。だから、選ぶポイントを決めておいた方がいい。私がよく親御さんに言っているのは、トップ(校長)の発言を聞いて親の目で見抜いてくださいね、と。

 トップの声を聞く場として学校説明会がありますが、説明会ってみんないいことしか言わないんですよ。だって、みんな自分の学校に来てほしいと思っているから。そのときに、トップの話が抽象的になっていないか、具体的に教育現場に落とし込めているのかなどを見抜くのは、大人しかできない。

西村 そうですね。私立の場合は、やはり校長の存在は大きい。リーダーである校長がどんな考えを持っているかというのは、とても大事なことだと思います。

 子どもは校舎がキレイだったとか、対応してくれた生徒が優しかったとか、そういう目線で学校選びをするところがあります。それがダメというわけではないけれど、学校説明会などでお手伝いをしている生徒というのは、先生から選ばれた優秀な子である場合が多い。いいところしか見せないんですよ。

 だから、一番いいのは、登下校の生徒の群れに紛れ込んで一緒に歩いてみる。そのとき、その学校の生徒が話していることを聞いてみて、ここはうちの子に合いそうだなとか、ちょっと違うなとか判断してみるといいと思います。それができるのは、わが子をよく知る親御さんです。そうやって、いくつか候補を挙げてから、子どもに選ばせるというのがいいと思います。

高濱 そうそう。わが子に合う学校はどこかという視点を忘れてはいけない。ところが、偏差値に振り回されてしまう。偏差値が上がれば、ワンランク上の学校を目指すようになってしまうんです。

西村 偏差値にこだわるお父さんも多いですね。サピックス偏差値48だったら受けさせない。せめて50は超えてほしいって、50のラインにこだわるお父さんがいます。

 そういうお父さんの特徴は地方のトップ校出身が多い。自分の受験経験は高校入試からで、自分は偏差値70を超える学校に進学した。偏差値40台の学校というのは、勉強ができない子が行く学校というイメージがある。もちろん、母集団が違えば偏差値も変わってくることは、頭では分かっているのです。でも、気持ちが許さない。実際は、サピックスの偏差値48というのは、四谷偏差値なら58ぐらい。高校募集がある学校だと、高校入試では偏差値70を超えるところもあります。大学進学実績を見ると、かなりよかったりもするのです。

 学校選びで一番大切なことは、「この学校にうちの子が行ったら、合うかな?」という、わが子を中心に置いた視点です。それを置き去りにして、偏差値の高さだけで学校選びをしてしまうと、入学後にギャップに苦しむのはお子さんです。

高濱 近ごろは、親だけではなく、おじいちゃんやおばあちゃんが口を挟むこともあります。「昔、あの学校は……」とかつての印象から抜けられない。でも、私立中高一貫校は年々変わっています。昔はガラの悪かった学校が、今は進学校になっていたりする。大事なのは今の学校を見ることです。

「中学受験における親の役割で大事なのは、学校選びだと思っています。わが子に合う学校はどこかという視点を忘れてはいけない」(高濱さん)
「中学受験における親の役割で大事なのは、学校選びだと思っています。わが子に合う学校はどこかという視点を忘れてはいけない」(高濱さん)