子どもには好きなことを見つけ、幸せな人生を歩んでほしいと思っていても、「小さいときからあれこれをさせて、子どもの自由を奪っている親が多いように感じます」と言うのは、花まる学習会代表の高濱正伸さんと中学受験プロ家庭教師の西村則康さん。今の子育てについて感じることを聞いてみました。3回にわたって紹介します。

なぜ親は早期教育に走るのか

日経DUAL編集部(以下――) お二人は約30年前から教育に携わって、一時期同じ職場にいたこともあるとか。今の子育てについて、どのように感じていますか?

高濱正伸さん(以下、敬称略) 私が最初に勤めた塾は下町にあって、おおらかな雰囲気でした。「先生、すみません! うちの子、すぐサボるので、どんどん叱ってやってください!」と、親御さんにお願いされ、厳しくしたらむしろ感謝されるような(笑)。

西村則康さん(以下、敬称略) そうそう。昔も今も、子どもが自主的に勉強するようになるまでに、時間がかかるというのは変わらない。でも今は、親御さんがあれこれ手出し口出しをすることが多くて、子どもの自主性が育ちにくくなっているように感じますね。

高濱 小学生の子どもにとって負担が大きい中学受験は、ある程度、親のサポートは必要ですが、それを中学生になっても続けている親御さんがいますね。「このドリルをやっておくといいみたいよ」といろいろな情報を集めては、子どもにやらせている。でも、そうしている限り、子どもはいつまでたっても自立できない。

―― なぜ、なかなか子離れができないのでしょう?

高濱 少子化の影響は大きいと思いますね。子育てで失敗したくないという気持ちもあるのだと思います。少しでも良さそうな情報があれば、「わが子のために」と飛びつきたくなりますよね。昔であれば、「そんなにたくさんさせたらかわいそうよ」と、口出ししてくれる人、例えばおばあちゃんなどがいたかもしれないけれど、核家族だとそれを指摘してくれる人がいないというのも子離れができない原因ではないかと感じています。

西村 私は早過ぎる教育には少々疑問を感じています。幼児期に先回りの教育をしていると、「早くやろうとする」「きちんと読めない」「計算ミスが多い」といった傾向が出てくることがあり、中学受験で伸び悩む例をいくつも見てきたからです。

高濱 もし人よりも速く文章を読めるようになったとしても、それは、人より速くそばが食べられるのと同じレベルでしかない。むしろ、少なく読んで、多くを考えたほうが頭は働きます。

西村 頭を働かせるには、幼児期はとにかくたくさん遊ばせたほうがいいです。自分の好きなことをとことんやらせてあげることが、実はとても大事なのです。

 習い事などもあれこれさせるより、遊ぶ時間を多く作ってもらいたいです。小さい子どもは何に興味を持つか分からないので、いろいろな経験をさせてあげたいと思う親御さんの気持ちも分かりますが、1週間のスケジュールが習い事で埋め尽くされていると、子どもは自由に遊ぶことができません。

―― なぜ幼児期にたくさん遊ぶことが大事なのですか?

約30年前から教育に携わる二人。一時期同じ職場にいたこともあるそう
約30年前から教育に携わる二人。一時期同じ職場にいたこともあるそう