周りがやるからイヤでも受験を頑張った

 「僕自身もそういうふうに考えるようになったのは35歳を過ぎた頃からですし、もし、通塾可能なところに住んでいたら自分も通っていたと思いますけどね。灘高に入ってからは部活に入り、高3の夏まで部活一本の日々でした。しかし、夏の大会で敗退してしまいます。ここから受験勉強をやらなきゃいけないのかと憂鬱で、現実逃避に小説を書いたりしていました。受験勉強は嫌だけどやらなきゃいけない、というのは周囲の環境が大きかったと思います。周りがみんな受験するわけですから、やっぱり自分も勉強して受験をしなければいけないなと意識が働くわけです」

 自分の意志はもちろん大事ですが、周囲の環境も大事ということですね。

 「何度も言いますが、僕は自分を信用していないので、『勉強するようにならないといけないように感じる環境』を選んだことが本当に大事だったと思いますね」

 子どもに、環境を選ばせるように誘導するにはどうすればいいのでしょうか。

 「僕は、親や、学校の先生など教育者の役割は『子どもに知識を教える人』から『学ぶ者(子ども)が自ら歩む力をつけるために励ます、エンカレッジするコーチ』に変わったと考えています。ある子どもにとっては、勉強をする環境がいい環境になるかもしれないし、ある子どもにとっては、スマホの制限がなく動画配信を自由にできるのがいい環境かもしれない。万人に対して、『これがいい環境だ』という明確な答えがないからこそ、親がこうしろ、というわけにはいかない。子どもとの対話を通じて、本人がよしと感じる環境や人生の方向を共に考えていけたらと思っています」

 親ですら迷いが多くなる時代の転換期、子どもと話し合って共に考えていくことが親にできることなのです。

 次回からは、そもそも受験にはどういうメリットがあるのか、習い事や勉強を子どもがやりたくないといったときにはどうしたらいいかを『ドラゴン桜』の桜木先生が解説していきます。

取材・文/代 麻理子 撮影/川田雅宏