教科書を読み込んで灘高合格

 中学生の間は父親の転勤により南アフリカで過ごしました。

 「南アフリカでは友人もできましたが、どこか孤独感がつきまとっていました。中学生という年齢のせいもあるかもしれません。当時僕は遠藤周作と村上春樹の小説に傾倒していました。彼らはそれぞれ慶応、早稲田卒なので、僕自身も大学はそのどちらかに行こうと思っていました。高校でそのどちらかの付属高校に入れたら、大学受験勉強に費やす時間を文学について深く学ぶ時間に使えるなと思っていたんです」

 「慶応にしろ早稲田にしろ、中学受験で失敗した僕が帰国後に高校受験で挑戦するのだとしたら、教科書に書いてあることだけはきちんと理解しないといけないという焦りがありました。当時はインターネットも今のようには普及していなかったし、南アフリカでは塾も通えないし参考書も買えない。そんな状況だったので、せめて教科書に書いてある中身だけは分かるようにしようと丁寧に教科書を理解するよう心がけていました

 通塾もせず、ネット授業も受けずに、教科書を読み込んだ結果、難関の灘高校に合格します。「僕自身振り返ると、人生で一番頑張ったのは灘高受験かもしれません(笑)」

 教科書を丁寧に理解するだけで高校受験に合格した経験から、佐渡島さんは教科書の重要性を強調します。「小・中学校の受験に関しては性質が違いますが、高校受験、大学受験では、基本的には教科書に書いてある内容をしっかりと理解していれば合格できます」

 「教科書と言っても、きちんと隅から隅まで理解しようとすると奥が深いんです。目の前の教科書にきちんと向かわず、塾に行けばできるようになるんじゃないかと思っている人が多いのではないでしょうか。塾に通うことは、言い換えると他人に自分の壁を越えさせてもらおうと他人任せになることです。自分自身で壁を1つでも乗り越える経験が大事だと思います」

 とりあえず塾に行かせる、行っておけばいい、というものではないというわけです。