職場での人間関係も他人だからこそ対話を重ねる

 それぞれの人にどんなスタイルで接すればいいかを考えて対話を重ねることは、会社での人間関係にも生かせそうですね。

 「僕もまさにそう感じています。出版社で働いていたときにはそこまで意識していなかったのですが、コルクを起業してからは人間関係について特に考えるようになりました。社員に対して自分がされて嫌なことはしないようにと思って行動していたら、それが裏目に出ることもあり……」

 例えばどのようなことですか?

 「僕は誰かに何かを都度報告しながら進めていくのはストレスに感じます。『自由にやってくれ』という状況のほうがうれしい。だから社員にも『責任は取るから自由にやっていいよ』と伝えていました。けれど、それはあくまでも僕自身が好んでいるスタイルで、実際には定期的に話し合いを持ちながら進めていくスタイルを好む人のほうが多いと気づきました。

 子どもが他人であることと同じように、一緒に仕事をしている仲間も他人です。職場での人間関係は、毎日顔を合わせて長い時間を共に過ごしているから何となくお互いを分かっている気がしてしまいますが、他人は他人。それぞれの人が自分とは別の思考を持っています。そのため、意見の相違もごく自然なことなんですね。それに気づいてからは特に、目の前にいる人に集中して接し、お互いの思いを照らし合わせるように心掛けています」

 職場で相対する人だけでなく、子どもも親とは完全に違う「別人格」であるとは、関係性が近い故につい忘れがちです。丁寧な対話を重ねることで、別人格である人と共に、親自身もさまざまな気付きを得て成長していけるのかもしれません。

取材・文/代 麻理子 写真/川田 雅弘