米国企業、日本のシンクタンク、フランスにある国連機関などに勤めた異色の経歴を経て、ノンフィクション作家として活躍する川内有緒(ありお)さん。バリキャリ派に見えて、「直感だけを頼りに次に進むべき方角を決めてきた」と話す川内さんは現在、保育園児の母親でもあります。親になっても「守りに入る」という言葉とは無縁な生き方を貫く川内さんが「働くこと」について考える連載エッセー。4回目は「子育ての方針」について。
わが家には「白旗の少女作戦」がある
早いものでこの連載も4回目を迎え、働き方(1回目)、結婚(2回目)、夫婦(3回目)ときて「そろそろ川内さんの子育て方針はどんなものか知りたい」と編集者に言われた。
はーい、了解しました~、と軽やかに引き受けた後に、はたっ!とフリーズした。
やや!? 私に子育ての方針なんてあるんだっけ?
正直なところ、うちの子育てはかなりテキトーである。「テキトーなことが子育て方針です」というのが本音だが、それじゃあやっぱりダメだろうな。アグネス・チャンさんみたいに、息子3人が立派になりました! みたいな結果があるならまだしも、娘はまだ5歳で、「テキトーな子育て」の結果は未知数だし。
いやあ、参ったぞ……と悩んだ揚げ句思い出した。
そうだった、わが家には「白旗の少女作戦」があるじゃないか!
「方針」というにはもはや日常に組み込まれ過ぎていて、長いこと忘れてしまっていた。その具体的な目標としては「6歳までに自分でお弁当を作れるようになる」である。
えーと、皆さん『白旗の少女』ってご存じですか?
1989年に出版された本で、太平洋戦争末期、激戦地の沖縄で実際に起きた話だ。私は娘を出産した2週間後にこの本を読み、ぐわわわーん!という効果音が脳内に響くほどの衝撃を受けた。
薦めてくれたのは、夫・I君。ある日、雑談する中でこの本のことが話題に上がったものの、私は本のタイトルすら知らなかった。
「えええ、ほんとに読んだことないの? 今すぐ読んだほうがいい」とI君は言い、すぐに買ってきた。
慣れない育児で私はヘトヘトだったが、1ページ目を開いた後は、もうノンストップ。途中で娘に授乳をしたりしながらもぐんぐん読み進み、最後は激しく嗚咽(おえつ)しながら本を閉じた。