米国企業、日本のシンクタンク、フランスにある国連機関などに勤めた異色の経歴を経て、ノンフィクション作家として活躍する川内有緒(ありお)さん。バリキャリ派に見えて、「直感だけを頼りに次に進むべき方角を決めてきた」と話す川内さんは現在、保育園児の母親でもあります。親になっても「守りに入る」という言葉とは無縁な生き方を貫く川内さんが「働くこと」について考える連載エッセー。1回目は過去の職場を色分けして振り返ります。

3カ国で会社員、公務員、フリーランスを経験した

 こんにちは、川内有緒です。ノンフィクションやエッセーを書きながら、東京の小さなマンションで夫と4歳の娘の3人で暮らしています。10年前パリで買った古ぼけたダイニングテーブルでこの原稿を書いています。家の前に公園があるせいか、1匹のセミが窓の網戸に止まってジージーと鳴き続けていて、さっきから全く集中できないのですが、それでいて、ああヤツは今、短い生を全うしようとしているんだ、と思うとむげに追い払うこともできない、というジレンマの中にいます。

 ん、誰? お前なんか知らん、というみなさま、そうでしょうとも。

 いちおう肩書は「作家」なんだけど、著作も少なく(5冊だけ)、連載や寄稿も決して多くない。しかも書いているのは、日本人の約90%が年に1冊も読まないという「ノンフィクション」である(自分調べ、注:サンプルに偏りあり)。

パリの職場の近くを走る電車から見えた風景
パリの職場の近くを走る電車から見えた風景

 さて、6回にわたり「働くこと」をテーマに書くことになった。

 どうして私が? と問われれば、たぶん、アメリカ、日本、フランスの3カ国において、会社員、公務員、フリーランスと全く異なる立場で働いてきたからだろう。こう書くと、え、もしかしてバリバリのキャリア志向? と誤解されてしまいそうだが、それもちょっと違うのだ。キャリア戦略など何もなく、常に後先考えずに嫌なことから逃げ続け、ただ直感だけを頼りに次に進むべき方角を決めてきた、というあたりが真実である。

 初回は、そんな私の自己紹介がわりに、寄り道だらけの人生をダイジェストで振り返り、「仕事とは何か」を考えてみたい。

「人生再設計第一世代」とラベリングされて

 私は、1972 年、第2次ベビーブームのど真ん中に生を受けた。この世代というのは、受験は「戦争」で、就職は「氷河期」。最近、政府から「人生再設計第一世代」とラベリングをされた1人だ。まあ、ある意味で当たっているのかもね。だって、誰に何を言われたわけでもないのに、すでに何度となく人生を再設計してきたのです、ふふふ。おかげで、ブラックからホワイトな職場まで、と幅広い経験を有している。ちなみに最初の職場は、色に例えるならレッドだった