仕事とは、自分を表現する手段なのかもしれないということだった。
自分は何者で、この世界に何を望むのか。
何を大切にし、何を追いかけ、何から逃げたいのか。
誰とどんな風に過ごし、どんなことに時間を使いたいのか。
そこまで考え尽くすと、また国連も辞めた。とにかく、ものを書く、ということに人生の時間を使ってみたくなったのだ。自分の人生と周囲にある世界が、少しでも心地良い方角に向かうために。
こうして日本に戻って9年が経過した。
働き方は黒でも白でもなく、強いて言えば、その二つの間に存在する多彩なグラデーション。突発的に海岸に朝日を見にいく日もあれば、明け方4時に目覚ましをかけ、深夜までパソコンにしがみつくこともある。鼻歌交じりの日もあれば、わあっと頭を抱えるような日もある。しかし、全ては自分の決断が自分に返ってくるだけだから、気分は驚くほど爽やかである。
ときどき「海外生活の後で、再度の日本の生活は息苦しくないですか」と質問されることがある。私は「いや、大丈夫ですよ」と答えている。だって歩むスピードや立ち位置が変われば、そこから見える風景も変わるものだ。
同じ山の道でも、麓にいるのか、森の中にいるのか、崖の横を歩いているのかで見える風景が変わるのと似ている。崖を行く道は、もちろん怖い。でも、ものすごい絶景が目に入って、深呼吸をすることもしばしば。
おかげさまで今自分は、とても風通しが良い場所にいる。
よかった、セミはいつの間にか飛び去ったらしい──。
写真提供/川内有緒