例えば、3年目の北海道・道東の旅。この年は、旭川でキャンピングカーを借り、知床半島を目指した。当たり前だが、キャンピングカーの利点はどこででも寝られることである。だから、思い切ってルートも旅程も決めずにノープランで出かけてみた。

 3人で気に入った湖のほとりに車を止め、「馬に乗りたい」という娘のリクエストで牧場を探し、キャンプ場に現れた野生の鹿の親子を観察し……という1日を繰り返しているうちに、あっという間に日々が過ぎ、なんと最終目的地の知床にたどりつけないままに旅を終えた。これはこれで、普段ノンストップなルーティンに追われている身には、なかなか素晴らしい解放感である。それ以降は、あまり荷物も持たず、ただふらふらと遊牧するようになった。

「自分も本を出したい」とか言いだした娘

 さて、そんな旅も5回目となった去年は、台湾を1周することにした。しかも行き先の「台湾」を決めたのはナナオ本人だ。私とI君が「いやあ、そろそろアジアもいいよね、ボルネオとかどうかな」などと話し合っていると、娘がズバリと意見を言ったのだ。

 「ナナはタイワンがいい。R君(保育園の同級生)もタイワンに行ったんだってー。だから、ナナはタイワン、行きたい!」

 おお、なるほど! ということで、私たちは台北行きのチケットを買い、レンタカーと電車を駆使して、台湾をぐるりと1周することに。

 旅の間じゅう、ナナオは「今日は夜市に行きたい!」「今日は温泉に入りたい」などと自分の主義主張を展開し続けた。その前年までは、親が行くところに付いていく、という受け身なポジションだった娘が、一気に旅の主役に躍り出た格好だ

3歳のときには、アメリカ北東部のニューイングランド地方へ
3歳のときには、アメリカ北東部のニューイングランド地方へ

 さらにナナオは、旅の間に「自分も本を出したい」とか言いだし、突如としてメモ帳に短い物語「ルビイのおはなし」を書き始めた。

 うわあ、もうそんなこともできるの、と仰天しながら、私はその驚きを旅日記にまとめた。そんな家族の記録も、もう5年分たまった。いつか本にするかもしれないし、しないかもしれない。急いでいないので、おいおい考えていこうと思う。

 当面は、ナナオが「もういい」というその日まで、ナナタビを続けたい。だって親と子どもはずっと一緒にいられるわけではない。だから、「ずっと」じゃなくて、「ぎゅっと」凝縮した時間を送りたいと願うのだ。

写真提供/川内有緒