ひとりで旅に出られないのならば、家族みんなで行けばいい

 アメリカ人のマシュー・アムスター=バートンさんの『米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす』である。

 これはマシューさん夫婦と8歳の娘、アイリスちゃんの3人で、東京・中野のアパートに滞在しながら、日本の普通のごはんを食べ歩いた記録である。いわば、なんてことのない家族旅行の記録なのだが、読むほうはその家族のやりとりも含めて楽しめる。

 読み終えた私は、なるほど、そうか! と手を打った。

 ひとりで旅に出られないのならば、家族みんなで行けばいいのか!

 その後、ひょんなことからマシューさん本人とメールでやりとりする機会が訪れた。「駆け出しの母親」であり、駆け出しの物書きである私に、マシューさんは、こんな言葉を贈ってくれた。

 「アイリスがいることで、自分は以前より、良い書き手になれた気がします。彼女の存在により、普段とは異なる視点から旅や経験を見つめることができるようになりました。もしアイリスがいなかったら、この本を書くことはできなかったでしょう」

 これは、大発見だった。それまで、子育てについて、家族の時間と引き換えに、自分の時間や未来を失うというトレードオフの印象を持っていた。しかしこの時から、いやいや、違う、娘の存在により、自分の人生の可能性はきっと大きく広がっていくのだ! というオープンで明るいイメージを持つようになった。

アメリカ・ヨセミテ国立公園にて。ナナオを背負って歩く夫のI君
アメリカ・ヨセミテ国立公園にて。ナナオを背負って歩く夫のI君

 こうして「娘を連れてみんなで旅に出よう!」と盛り上がった私たちは、娘が0歳11カ月のときにアメリカのヨセミテ国立公園に向けて出発。世界一の巨木といわれるジャイアントセコイアの森を目指した。強調しておきたいのは、別に娘に素晴らしい体験をさせてやろうといった親心がベースにあったわけじゃないことだ。単純に、自分たちが行きたかったところに行く! 何がなんでも行く! というエゴイスティックな欲求がベースにあった。

赤ちゃんを旅に連れていく 荷物はすさまじい量に

 それでも、赤ちゃんを旅に連れていく以上、現実問題として対処すべきことは山のようにあった。