わが子の発達を目にする中で、「ほかの子と違う」「もしかしたら発達障害かも」と思ったことはありませんか。そうしたとき、実際に診察を受けるタイミングはどうしたらいいのでしょうか。国立国際医療研究センター国府台(こうのだい)病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長の宇佐美政英さんに聞きました。

自閉スペクトラム症の子どもは約30年で45倍に

 近年、発達障害という言葉が知られ、子育てや学校教育の現場でも理解が進むようになりました。発達障害とは脳機能の発達に関する障害のことで、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、限局性学習症(学習障害)、チック、吃音(きつおん)などがあります。今回はその中でも一般的なADHDと自閉スペクトラム症について、宇佐美さんに聞きました。

 「ネイチャー誌によると自閉スペクトラム症の子どもは1975年には5000人に1人の有病率であったのが、2009年には110人に1人と急増しているとされます。急増している原因については自閉スペクトラム症の存在が知られるところとなり、診断基準が広まったこともあるとされていますが、はっきりとした因果関係は分かっていません」

 一方、文部科学省の特別支援教育に関する調査によると、06年には通級でADHDの指導を受けているのは1631人でしたが、20年には3万3825人と約20倍に増えています。

 「世界中では18歳未満の子どもの5%が罹患(りかん)しているとされます。5%というと100人中に5人、40人のクラスならADHDの子どもが1~2人はいるということ。ですので、決して珍しいことではありません。また、過去の文学作品を見ると、夏目漱石の『坊ちゃん』、山中恒の『あばれはっちゃく』、ハインリヒ・ホフマンの『落ち着きのないフィリップの話』など、今だったらADHDタイプとされる主人公が登場するものも数多くあります。昔からADHDタイプの子どもは多くいたけれども、ADHDが広く知られることで、子どもを取り巻く時代が変わった、と言えるかもしれません」

 では、実際に子どもが成長する過程で、「ほかの子どもと違う」「発達障害かもしれない」と感じたときにはどうすればいいのでしょうか。

 「発達障害があっても、すくすくと育っているケースも多くあります。問題なのは、障害があることで子ども自身が生きづらさを感じていたり、自己肯定感をなくしていたりするケースです。そうした場合は診察を受けることを勧めますが、まずは自閉スペクトラム症とADHDがどういったものなのかを見ていきましょう」