わが子には何よりもまず、健やかに育ってほしい──そう願う人も多いでしょう。しかし、新型コロナウイルスの流行をはじめ、ロシアのウクライナ侵攻など「想定外」の状況が続き、子どもたちの心は傷ついています。こうした中で子どもたちに起こりうるメンタル面の疾患について、国立国際医療研究センター国府台(こうのだい)病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長の宇佐美政英さんに解説してもらいます。第1回は紛争地域の子どものメンタルヘルスについてです。

世界中の子どもの4人に1人が緊急事態下の国・地域で暮らしている

 2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻はいまだ停戦に至らず、痛ましいニュースや映像を見聞きすることが続いています。

 今回のウクライナ危機の以前から子どもが紛争に巻き込まれる事態は起きており、2017年のユニセフ(国際連合児童基金)の発表によると、4人に1人(5億3500万人)の子どもが災害や紛争、不安定な情勢など、緊急事態下の国・地域で暮らしているとされています。

 紛争により難民となった場合、難民の子どもは難民でない子どもよりも「学校に通えていない可能性」が5倍と高く、難民の子どもで小学校に通えているのは全児童の50%、中等教育を受けているのは25%未満。特に女子は紛争地域で危険な目に遭い、性的暴力などの被害を受けやすく、学校に通えない可能性も男子より2.5倍も高いとされています。

 こうした状況は改善することなく、世界的に活動する人道支援団体「セーブ・ザ・チルドレン」によると、「高強度紛争地域」で生活する子どもは2020年には前年よりも19%増の1億9300万人となりました。

 国府台病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長の宇佐美政英さんは、ロシアによるウクライナ侵攻で日本に避難してきたウクライナ人の子どもの診療の経験もあります。

 「まだウクライナ危機に関するデータは出ていませんが、今までの研究で、紛争は終了したとしても子どものPTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安障害、うつ病などの有病率を上昇させることが分かっています。また、親と子どもの精神病理にも相関が見られ、養育者が抱えるうつ病やPTSDなどの症状は子どもにも悪影響を及ぼすといわれ、心配な状況です」