「学童に行かない」宣言をした勇斗を何とか寝かしつけ、「会社を辞めて起業する」と言い出した和也と向き合った美紀だったが、プランの詳細を聞いていくと急に不安に。平穏だった野櫻家に突然訪れた急激な変化の行く末は?

【これまでのお話】
第1話 『野櫻家の選択』連載小説スタート!
第2話 あの時転職を決断した自分を褒めてやりたい
第3話 保育園の卒園式の朝、着物持参で義母が…
第4話 苦手な岩田と卒園後も付き合い続くと思うと…
第5話 入学式直前の美紀に部下からトラブル報告
第6話 それって職場いじめなんじゃない!
第7話 あの2人を組ませるのはまずいのでは?
第8話 共働きの危機? 夫と子から同時重大報告

『野櫻家の選択』 主な登場人物

◆野櫻美紀(のざくら みき) 三十六歳 /大手人材会社の営業企画部に所属。夫とは学生時代のゼミで知り合った。明るく前向き、大雑把。マイペース
◆野櫻和也(のざくら かずや) 三十七歳/大手住宅メーカーの人事部に在籍。おおらかで人当りが良さそうに見えて、実は神経質で小心
◆野櫻勇斗 (のざくら はやと) 六歳/保育園年長クラス。早生まれで小柄。性格は父親に似ておだやかで争いごとは嫌い

リビングには、美紀と和也が残された

 美紀はマグカップの紅茶をぐっと一息に飲んだ。そして、ふうぅと大きく息を吐くと、勇斗に向き合った。

「えっと、今日はまだ水曜日だから、勇斗は今週あと二回、学童に行かなきゃいけないけど、それにも行きたくない、と言うのね」

 こくり、と勇斗がうなずく。

「静岡のおばあちゃんに来てもらえないか聞いてみるけど、急なことだし、おばあちゃんにも都合があるから、無理かもしれない。その時は、ひとりで夜までお留守番することになるけど、それでいいのね」

 もう一度、大きくこくりとうなずく。

「それについては俺が……」

 言いかけた和也を、黙って、というように、美紀は手で制した。

「ともあれ、これからどうするかは、週末にゆっくり話し合いしましょう。ともかく明日明後日は学童を休むと連絡しておくから、それでいいわね」

「うん!」

 勇斗が元気よく答える。

 仕方ない。明日どうしても学童に行け、と言ったところで、感情的になっている勇斗は聞き入れないだろう。それに、明日明後日ひとりで過ごせば、にぎやかな学童にまた行きたくなるかもしれない。

 ともかく冷静になれるように時間をおくことだ。

「学童は行かなくても、学校は休んじゃだめよ。ところで、明日の用意はしたの?」

「うん、いや、まだ」

「すぐにやりなさい。あとでママがチェックするから」

 勇斗の学校の支度をみるのは美紀と和也、どちらとは決まっていない。手の空いている方がやるのだが、今日の和也はそれどころではないだろう、と美紀は思った。

「はーい」

 学童に行かなくてもすむ、と決まったからか、勇斗は元気に返事をして、自分の部屋に小走りで向かった。リビングには、美紀と和也が残された。

 和也が黙っているので、美紀が口火を切る。

「それで和くんの方、いきなり会社辞めるってどういうこと? 話の展開が早すぎて、ついていけないよ」

「俺の中では早くはないよ。実は、異動が決まった時から、会社を辞めることは考えていた」

「和くん……」

 なんとなくそんな気はしていた。昔から、営業だけは行きたくない、と言っていたのだ。いつまでいまの部署で耐えられるかと懸念していたが、異動してひと月足らずで辞めるとは予想外だった。

「もともと営業には向いてないと思ったし、あの上司がどういう人間かは、人事にいたから知っていた」

「だけど、なぜ今日なの? 昨日まではもう少し続けるつもりだったんじゃないの?」

次ページから読める内容

  • 部下を叱るにもやり方はある。なのに…
  • 人材サービスの仕事の大変さが、クライアント側にいた夫に分かるのか
  • 一度きりの人生だもん、嫌だと思いながら仕事していても仕方ないし

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