『野櫻家の選択』 主な登場人物
「じゃあ、このアイデアを進めてみましょう」
美紀はみんなの顔を見回す。スタッフもみな納得しているようで、うんうん、と頷いている者もいる。今日は部内会議で、美紀の部署のスタッフが全員集まっている。その中で、大学生の就活生を集めるための新しいアイデアが生まれたのだ。
仮題は「スイーツ大作戦」。優秀な女子大生を対象にした企業面談だが、いかにも会社案内といった堅苦しい場を用意するのではなく、有名パティシエのスイーツを用意したお茶会を開き、気楽な雰囲気の中で企業の人事担当者と学生に交流してもらおうというもの。美紀の会社はネットでこの会を紹介し、学生と企業の間を取り持つ仕組みを作るのである。女子=スイーツが好き、というのは安易と言えないことはないが、これならわざわざ女性優先と謳わなくても意図は伝わりやすい。企業によっては女性を多く採りたいというところもあるので、そういう会社に営業を掛けるのにはよい手段になるだろう。
「まずは社内会議を通してからだけど、これは実現させなくっちゃね」
「あの、ちょっと」
御前崎駿が挙手した。
「なに?」
「この企画、僕にやらせてもらえないでしょうか?」
集まっているスタッフの間にざわっとした空気が流れた。なんでおまえが言うか、という反発の気持ちがみんなにあるからなのだが、御前崎はまったく意に介さないようだ。
「えっと、それはどうして?」
美紀は困惑を隠せない。御前崎は十二人いるスタッフの中でもいちばん若い。昨年入ってきたばかりの新人である。やる気があるのはいいが、こうした企画をまとめられる力量があるとは思えない。
「だって、これ、僕のアイデアじゃないですか」
御前崎が言った途端、ざわめきが広がる。