『野櫻家の選択』 主な登場人物
「それで、結局学級委員を引き受けたの?」
カップ麺を食べる手を止めて、和也が聞き返した。今年は役員はやらない、と美紀自身が言ってたからだ。入学式の後、和也に早く帰るように美紀が勧めたのも、男の保護者がいると役員を押しつけられやすい、という噂を耳にしていたからでもある。
「まあ、ね。あの沈黙が耐え難くて。噂には聞いていたけど、あんな状態続けるくらいなら、役員引き受けた方がましだと思ったの」
しんどかったのは沈黙だけではない。着物が苦しかったからでもあるが、着付けをしてくれたのが和也の母静子なので、そこには触れないでいる。
今日は歓迎会で夕食はいらない、という話だったので、和也の分の食事はなかった。両親や勇斗と一緒に、駅前の寿司屋に行ったのだ。結局歓迎会はなかったという言う和也に、何か作ろうか、と美紀は提案した。でも、食欲がないからカップ麺でいい、と和也は言ったのだ。ジャンクなものが食べたい気分なのだそうだ。
「でもまあ、岩田さんとふたりでやるから、仕事も少しはましだと思うけど」
沈黙の行に耐えられなかったのは美紀だけではなかった。岩田大樹の母も同様だったようだ。ふたり同時に手を挙げ、どうしたらいいかとお互い顔を見合わせていたところ、司会の役員が、
「せっかく立候補してくださったのですから、おふたりに委員をやっていただいたらどうでしょう。ふたりともお仕事を持っていらっしゃるし、その方が何かと助かるんじゃないかしら」
と、発言した。すると、それまで気配を消していた保護者たちが、一斉に賛同の拍手をした。彼女たちからすれば、自分に降りかかって来なければ、誰でもいいのだ。ひとりだろうと、ふたりだろうと。