『野櫻家の選択』 主な登場人物
美紀をプロジェクトから外すことが既に決定事項になっていた
美紀の不安は的中した。翌日会社に行くと、課内のその日のスケジュール帳に『一五時~スイーツ大作戦プロジェクト会議』という項目が足されていた。しかし、その参加予定に美紀の名前はない。参加者は水谷のチームと御前崎となっている。美紀をプロジェクトから外すことが、既に決定事項になっていた。それについては皆、話題にしない。気にしないふりをして、美紀は仕事をした。そして、会議開始まであと五分という時、
「じゃあ、会議に出席する人はB会議室へ」
水谷が声を掛けると、水谷チームが席を立って別のフロアにある会議室に向かった。すぐに御前崎もそれに続く。美紀と美紀のチームのスタッフが席に残された。気まずい空気が漂っている。。
なぜ、マネジャーが参加しないのだろう。
みんながそう思っていることを意識しつつ、美紀は平気な顔をして、自分の仕事に集中するふりをする。ほかのスタッフも黙って仕事をしている。沈黙の状態がしばらく続いた後、ひとりの女性スタッフがついに声をあげた。
「あの、こんなこと聞くのは失礼かもしれないんですが、どうして野櫻さんは会議に参加なさらないんですか?」
みんなが一斉に美紀の方を見る。みんなも、やっぱり気にしていたんだ、と美紀は思う。
「ゼネラルマネジャーから、今後は水谷さんのチームでやった方がいいって言われたのよ」
「どうしてですか?」
「んー、今回の店の選定にあたって、私が公私混同したんじゃないか、と疑われたの。夫の仕事に便宜を図るために店を選んだんじゃないかって」
「実はそれ、水谷さんからも聞いたんですけど、そんなことないですよね」
「もちろんよ。確かに夫の知り合いの店ではあるけど、仕事上のつきあいはないし、それで夫が得することなんて何もない」
それを聞いて、質問した女性スタッフは安堵した顔になる。
「そうですよね。野櫻さんはそんな人じゃないですよね」
職場のぴりぴりした空気が、一気に緩んだ。みんなも、ほっとした顔をしている。
やっぱり自分について、よくない噂が流れていたらしい。噂は本人の耳には入ってこないし、でたらめな内容でも否定のしようがないのでどうしようもない。
噂の出どころは水谷だろうか。それとも、御前崎が私のことを嫌って、いろいろしゃべったのだろうか。
と、その時、フロアのドアを開けて御前崎が戻って来た。