『野櫻家の選択』 主な登場人物
仕事で窮地に陥った美紀に和也が救いの手
美紀と御前崎は謝罪に走り回った。二軒はなんとか機嫌を直し、予定通り納品してくれることになったが、一軒には断られた。創立二〇周年記念の特別セール期間中だと言われてしまえば、それ以上無理を通すわけにはいかなかった。それで、急きょ新しい店を探すことになったのだが、なかなか引き受け手がみつからない。
「どこかいいスイーツの店を知らない?」
美紀は和也に尋ねる。お酒が苦手な和也は、むしろスイーツを好む。美紀よりもスイーツの店には詳しいくらいだった。
「そうだねえ。スイーツというか、デザートで有名なフレンチの店なら、つい最近知り合ったけど」
「どこの店?」
「吉祥寺の『コンテ・ブル』ってとこ」
「予約の取れない店で有名なところだよね。確かに、あの店のスイーツはレベルが高いし、そこなら参加者も喜ぶと思うけど。いきなり話を持って行って、受けてくれるかな」
「一昨日の異業種交流会で、店長の有田さんと知り合いになったんだ。音楽の趣味が合って、意気投合したんだよ。話をするだけならタダだし、聞くだけ聞いてみようか?」
「そうね。お願いできるかな」
「わかった。今日はもう遅いから、明日電話するよ」
その翌日、和也が電話を掛けると、『コンテ・ブル』の有田はあっさり承諾してくれた。オーナーシェフなので、有田がOKすれば問題はない。さっそく美紀が御前崎を連れて挨拶に行き、詳細を説明した。そうして『スイーツ大作戦』の七番目の店が決定した。
その翌日には企画に参加する店のラインアップを発表し、参加者の募集開始。予想していたよりも多くの希望者が集まり、参加を断らなければならない人も出たほどだ。滑り出しは上々だ。
そうして二週間後にいよいよ本番。社内のイベントスペースの一画を七つに仕切り、それぞれのお店のスイーツを五十個ずつ置く。併せてそこに店の紹介パネルも飾る。参加者は五十人。ひとり七個は食べられる計算になる。女性なのでそんなにたくさん食べる人は多くはないだろうと思われたが、「足りないより余るくらいがいいだろう」という判断である。余ったら社内の各部署に配ることになっているので、他部署のスタッフも楽しみにしていた。