会社を辞め、起業準備に入ったはずの和也が、毎日、家事ばかりしている。帰宅後は何もしなくてもいいという、あまりの楽さに、「もうこれでいいんじゃない? 私の給料で二人を養っていけないわけじゃないし」と、ついその状態に甘んじてしまいそうになる美紀だったが…。

【これまでのお話】
第1話 『野櫻家の選択』連載小説スタート!
第2話 あの時転職を決断した自分を褒めてやりたい
第3話 保育園の卒園式の朝、着物持参で義母が…
第4話 苦手な岩田と卒園後も付き合い続くと思うと…
第5話 入学式直前の美紀に部下からトラブル報告
第6話 それって職場いじめなんじゃない!
第7話 あの2人を組ませるのはまずいのでは?
第8話 共働きの危機? 夫と子から同時重大報告
第9話 上司に部署で罵倒され、退職・起業を決意

『野櫻家の選択』 主な登場人物

◆野櫻美紀(のざくら みき) 三十六歳/大手人材会社の営業企画部に所属。夫とは学生時代のゼミで知り合った。明るく前向き、大雑把。マイペース
◆野櫻和也(のざくら かずや) 三十七歳/大手住宅メーカーの人事部に在籍。おおらかで人当りが良さそうに見えて、実は神経質で小心
◆野櫻勇斗 (のざくら はやと) 六歳/保育園年長クラス。早生まれで小柄。性格は父親に似ておだやかで争いごとは嫌い

こうして辞められるのも、美紀ちゃんが働いてくれるおかげだね

 和也が退職したのは、それから二ヶ月後だった。直属の課長はすぐにも辞めてほしいと言ったようだが、かつての上司である人事部長が「退職するなら、上半期のボーナスが出てからにしなさい」と忠告してくれた。そうして、営業部長にも働きかけてくれたので、和也は五月中旬までは出社、それ以降は有休を消化し、ボーナスが出る六月十日の翌日に退職する段取りになった。おまけに会社都合の退職ということに人事部長が取り計らってくれたので、失業保険も退職から一カ月ほどで貰えることになった。

「起業の準備もあるし、すぐに勇斗が夏休みになるから、その期間は家にいることにするよ」

 と、和也はのんびりかまえている。大学卒業以来、ずっと真面目に働いてきたのだから、ここで少し休みを取るのもいいのかな、と美紀もあえて反対はしない。

 一方、勇斗の方は、二日ほど和也の母に午後から夕方まで来てもらったが、その翌週には地元のシルバー人材派遣センターに依頼して、親が帰宅するまでの数時間一緒に過ごしてくれる人を派遣してもらうことにした。曜日ごとに違う人がくるのは少々面倒ではあったが、どの人も子ども好きな女性だったので、戸惑うことはなかった。それに、業者のベビーシッターにお願いするよりは安価ですむ。勇斗もすぐにその状況に慣れ、「今日はどんな人が来るのかな」と楽しみにしていた。

 そうして、和也が有休消化の時期になるまでをやり過ごし、退職日を迎えた。

「ごめんね。和也の最後の日くらい早く帰りたかったんだけど」

 その日は美紀のチームが開催するイベントが入っていた。家族を大事にすることは奨励される会社だったが、マネジャーという立場上、夫の退職祝いをしたいから早く帰るとは、さすがに言えなかった。

「いいよ、別に。退職祝いしてくれるなら週末でかまわないし、今日は片付けのために会社に顔を出すけど、実質有休消化前の最終日で会社との縁は切れたも同然だから」

「それはそうだけど」

 和也は思ってた以上にさばさばしている。営業部の方では歓送会もなかったという。

「歓迎会もなかったから、当然でしょ」

 と、本人は平気な顔をしている。それでも、かつての人事部の仲間や同期の連中が集まって、送別会は開いてくれたらしい。

「同僚って言っても、営業部の連中とはほとんどつきあいないし、送別会の会費を払わせるのも申し訳ないよ」

 だが、最後の日に出社すると、女性スタッフが花束を渡してくれた。それは本人も嬉しかったようだ。大事そうに花束を抱えてかえり、すぐにリビングに飾っていた。

 そうして、和也は晴れてフリーの身になった。

「こうして辞められるのも、美紀ちゃんがしっかり働いてくれるおかげだね」

「そんなの、当たり前でしょ。家族はワンチームなんだから」

次ページから読める内容

  • 専業主婦の奥さんのいる人って、こんな生活なんだな
  • 起業しなくても、3年くらいしてからでもいいかもしれない
  • いつの間にか、夫婦間に上下関係ができている

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