話しやすい大人として、生徒をサポートできる存在でありたい

横山 小学生は基本的に一斉下校なので、中高生ほど放課後が自由ではありません。学校によって休み時間の使い方も違っていまして、例えばうちの学校では中休み(午前中にある20分間などの長めの休み時間)は、雨の日でなければ図書館を利用できません。

衛藤 刺激的な言い方になってしまいますが、僕は学校内での異世界をつくりたいと思っています。

横山 異世界、ですか。

衛藤 公立図書館で働いていた時に、ある女子高校生が、こちらを何度も見ているけれど声をかけられない様子で、やっとのことで本をどう探せばよいのかレファレンスを求めてきたことがありました。「親権」についてでした。公立図書館で調べられるというのも社会的な環境として大切ですが、学校内にきちっと整備された図書館があれば、知りたいことをすぐに調べることもできます。また、先生とは違うポジションの、いつもそこにいる話しやすい大人として、学校司書が存在できればと思っています。ここは違うんだぞという異世界ではなく、さりげなくサポートできる存在でありたい。

宮崎 選択肢があるよ、と提示するってことですよね。似たような例で、毎年図書館内にLGBTについてのコーナー展示を設けていますが、ある卒業生は「その展示があったことで3年間を乗り切れた」と話していました。授業でもLGBTについて取り上げられていますが、それに加えて資料が図書館にあることで、その生徒は存在を認められたと感じたのでしょう

先生とは違うポジションで、生徒をサポートできる存在でありたい、と話す司書も。画像はイメージ
先生とは違うポジションで、生徒をサポートできる存在でありたい、と話す司書も。画像はイメージ

―― 学校図書館にいつも司書がいるかどうかで、子どもたちの本との出合いや学びには格差が生まれるように思います。2014年の学校図書館法改正によって学校司書の配置が努力義務化され、配置は進むかに見えましたが、いまだフルタイム勤務は32%で、正規職員として募集しているのは4%というデータがあります(全日本教職員組合調べ)。皆さんの勤務状況や待遇について教えてください。

横山 今年度から制度が変わったため、私は昨年度までは非常勤職員でしたが、今年度からは会計年度任用職員になりました。私の勤務する杉並区は、雇用条件はよいほうです。週5日、子どもたちが学校にいる時間に働くことができます。昇給もあります。言っていて悲しくなりますが、昇給がある学校司書というのはあんまり聞いたことがないんですよね。私の場合は臨時休校期間中も事故欠勤という扱いで、普通に給料も出ていたので大変恵まれている状況だと思っています。

―― 公立小中学校の司書のなかには、学校を何校もかけもちする人がいると聞きました。

横山 杉並区は1校専任ですが、自治体によっては2~4校を兼任する司書がいたり、週に数日~数時間しか働けないところもあったりと、混在しています。学校司書は雇用面で厳しい状況に置かれていると言わざるを得ません

衛藤 僕が働く区では、民間企業に図書館の運営を委託しています。僕は司書でありながらも企業の社員で、1年ごとの契約更新です。僕は1校専任ですが、学校によっては1校に2人が交代で勤務しているところもあります。区からの委託契約は3年なので、常に今後どうなるのかという不安はあります。それでも、勤務日が週1日とか2日とかいう自治体も多いので、学校司書としてはありがたい環境です。臨時休校時の自宅待機中も給与は8割補償されました。ただ、満足かと聞かれれば、思うところはありますね。