共働きママ・パパには2つの顔がある。家庭では子育てしながら多様な商品やサービスを利用する消費者の顔を、社会ではさまざまなものやサービスの送り手としての顔を持つ。そんな共働きママ・パパに、公私の両面から役立つビジネストレンドを紹介する連載。

人手不足や高齢化など、さまざまな課題が山積みと言われる日本の農業。「農業を変えたい」と挑む農業系のベンチャーが盛んだ。今回は、子育て世帯によくある「子どもが野菜を食べてくれない」という悩みをキーワードに親の気持ちをがっつりつかむ、ある農業系ベンチャーの取り組みについて紹介する。

できない理由をすべてつぶして「手ぶらで畑」を実現

 日曜日の夕方の住宅街。ママ、パパ、5歳ぐらいの女の子の3人が手をつないで歩いている。ママとパパがぶら下げている、大きめの白いレジ袋からは、大根や緑の葉がのぞいている。買い物帰りのようだが、よく見ると、3人とも泥の付いた長靴を履いている。野菜は、畑で収穫したばかりのもののようだ――。

 3人が出てきたのはサポート付き市民農園の「シェア畑」。2012年に埼玉県川越市で1カ所目を開設して以降、現在は首都圏と関西の94農園に拡大している(2019年10月末時点)。

 一見すると、普通の市民農園だが、休憩できるおしゃれな椅子が並ぶなど、ちょっと雰囲気が違う。売りは「手ぶらで畑ができる」という点。クワやスコップ、剪定(せんてい)バサミ、野菜を支える支柱や防虫ネットなど農具や資材がそろっているだけでなく、その季節に合わせた苗や種、肥料なども準備されている。ちなみに、畑はすべて無農薬で、肥料も牛ふん・鶏ふんたい肥や油かすなどの有機質肥料を使用する。

 栽培テキストなども豊富に用意し、初心者でもすぐに畑作りができるようになっている。さらに、シフト制で畑に勤務している菜園アドバイザーが、アドバイスをくれる。最低週に1回通えばよいというが、「忙しくて行けないときもある」という人のために、菜園アドバイザーが有料(週1回10分程度 1カ月2000円)でお世話してくれるサービスも整えている。

ライバルは習い事?

 「東京23区内など畑の少ないエリアは特に人気が高く、農園によっては、区画の空き待ちもあります」と、シェア畑を運営するアグリメディア農園事業本部の営業企画 PJリーダー斉藤優子さんは説明する。都会に住む現代人が持つ「畑をやってみたい」という潜在的な気持ちと、その後に続く、「でも農具は持っていない」「農具を保管する場所もない」「畑まで持ち運ぶのもたいへん」「やったことがない」「忙しくて行けないかもしれない」などのハードルをすべて最初から取り除いているのがブレイクした理由といえる。

 利用料は農園によって異なり、例えば京王線下高井戸駅から徒歩5分の「シェア畑 下高井戸」(世田谷区)で1カ月あたり3㎡8400円、6㎡1万2000円(税込、別途入会金 1万1000円が必要)。サポート付きのため一般的な市民農園よりは割高だが、農園数は毎年増加し、利用者数も右肩上がりで現在約2.5万人という。

 基本契約は1年単位(途中解約も可能)、平均継続年数は2年以上3年未満という。金額的には、子どもの習い事に似た感覚かもしれない。「『週末を利用して週に1回の習い事にするか、畑にするか迷って、畑で食育をすることにしました』というファミリーの利用者は実際いらっしゃいます」と斉藤さん。

 習い事や家事、レジャーなど、子育て世帯が休日にしたいことはたくさんある。ある意味、可処分時間の奪い合いともいえる。そんなファミリー層に向けて、同社が打ち出したのが「ベジトレ」というプログラムだ。ベジトレとは、子どもの野菜嫌いを克服するトレーニングのこと。

今夏、「ベジトレ」のイベントも実施した(写真提供:アグリメディア)
今夏、「ベジトレ」のイベントも実施した(写真提供:アグリメディア)