「時間に追われているときは、『え、今? 勘弁してよー』となりますよね。同時に、そんなことでイライラすること自体に罪悪感を持ってしまう気持ちも理解できます。だから、子どもがキッチンに興味を持ってやって来たときの親の声かけ例などを紹介した親向けの漫画の付録も作りました」。その名も『子どもがキッチンに来たら読む本』。

 親子で一緒に料理をする物語が描かれた絵本も、親の心の声をくんだ内容になっている。「『あー、生のお肉を触った手で目をこすらないで~!』などと親がハラハラすることがありますよね。お肉をママが切っている間に、子どもは海苔(のり)をちぎる、のように、『分担』を描きました。複数人で料理するときは分担したほうが、効率がいいことも伝えたいポイント。絵本に描いてあると子どもはすんなり納得してくれます」。“第三者”である絵本の力は強い。親にとっては助かる細やかさだ。

 完成したものは昔ながらの「紙の絵本」に見えるが、マーケッターとしてのキャリアを生かし、消費者の本音を存分に反映している点が、魅力につながっている。

これまで蓄積した膨大なレシピという社内資産

 同社にはこれまで蓄積した膨大なレシピという社内資産がある。その数は、国内のレシピ数約320万品、海外のレシピ数約350万品に上る(2019年12月31日時点)。同社は、それらのビッグデータを活用したさまざまな事業を手掛けているが、おりょうりえほん事業でも、一般の家庭でよく使われている食材や料理を調べるのに活用され、絵本の内容を、消費者の現実生活に近づけるのに一役買っている。

 一般的な知育本や学習教材と異なり、親にメリットがあるのも特徴だ。例えば大根がテーマの1冊では、部位によって味が異なり、適する料理が違うことなども描かれる。「『カットされてスーパーで販売されている大根はどの部分を買えばよいか分からない』という親の声に応える内容にしました」

 2019年5月のサービス開始以降、これまで10冊の絵本を読者に届けた。2020年1月末に計画していた目標会員数を達成したが、予想外だったのが、解約率の低さだという。その理由について、小宇根さんはこう分析する。「こちらが工夫して伝えたいと思っていることがきちんと伝わっている手応えがあります。例えば、『子どもが嫌いだった大根を食べるようになりました』『スーパーでどの部位を買うか意識するようになりました』などの感想が寄せられています。それぞれの家庭で目に見える変化が起きて、その経験がユーザー満足度につながっているのかなと思います」

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 後編では、「パパ視点」「地方活性化」「デザインスプリント」などのキーワードについて紹介する。

取材・文/小林浩子(日経DUAL編集部)