デジタルでレシピを提供してきた企業が「紙の絵本」を作る理由

 おりょうりえほんは、月額500円(税抜)で毎月1冊のオリジナルの食育絵本が届くサブスクリプションサービス。対象年齢は2歳から6歳。自分でシールを貼ってレシピを完成させる「レシピシールちょう」が付き、購読者は、子どもが実際に1人でそのレシピを基に料理している会員限定動画も見ることができる。

 事業を発案した小宇根さんは、前職の食品メーカー時代から、食育の大切さをひしひしと感じていたという。2017年にクックパッドにマーケッターとして転職し、同社の根幹事業である料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」の有料会員の増加策に取り組むことになった。

 「将来の会員獲得のためには、若い世代に食や料理への関心を持ってもらうことが必要です。おりょうりえほんのアイデアは、中長期的な視点で子どもにフォーカスしていきたいという会社の方針とも合致しました」。ちなみに、おりょうりえほんの購読者は、クックパッドの有料会員サービス「プレミアムサービス」も利用できる仕組みになっている。

 デジタルで多様なレシピを提供してきた企業が、なぜ今、「紙の絵本」を作るのか。「まず、娘の保育園の実例で、子どもにとって、絵本というフォーマットがレシピ本になることが分かりました。また、この事業の開発過程で、100組の親子にヒアリングを実施した結果、多くの親が『スマホ育児』に罪悪感を持っていて、やむを得ずスマホを与えることは現実にあるものの、本音では極力与えたくないと思っていることが分かりました」

 それらの親の本音を動画コンテンツ作成にも反映させた。「お出かけ先などで静かにする必要があり、やはりスマホを見せなくてはならない場合もあります。そんなときでも、意味のある内容であれば、親の罪悪感も和らぎます。動画は、あくまでもサブ的な位置付けですが、提供することに意味があると考えました」

おりょうりえほんとレシピシールちょう(写真提供:クックパッド)
おりょうりえほんとレシピシールちょう(写真提供:クックパッド)

忙しいときに子どもが台所に来ると感じる複雑な本音

 絵本制作の過程でも、親の心の底にひそむ罪悪感や本音を丁寧にすくい取る作業を行っている。

 例えば、子どもが台所に興味を持つと、共働き親としては少し複雑な気持ちになる。うれしい半面、時間のないときに子どもが介入してくると、余計に手間がかかる。料理ができる人になってほしいが、“戦力化”するまでにくじけそうになってしまうのも親の偽らざる本音だ。