北欧で子育て――と聞くと、どんなイメージがありますか。世界でも指折りの「幸せの国」として知られるデンマークで1児を育てる、元新聞記者の井上陽子さんが「DUALな幸せのカタチ」を模索する連載。多様な価値観に触れつつ、ジグザグと迷いながら進んできたこれまでを振り返ります。今回は、日本、米国、デンマークのどこで出産すべきか悩んだこと、デンマークの子育て、について語ります。

夫婦のやり方が確立するまでは、夫の母親も家には寄せ付けない

 米国で特派員をしている最中に妊娠した私だが、妊娠7カ月になろうという頃になっても、出産場所を日本、米国、デンマークの間で決めかねていた

 日本での出産は家族のサポートが得られて楽だし、帰るつもりで大量の家具を残してある。米国には既に家があり、それまで妊婦生活を送ってきて病院も気に入っていたし、子どもが米国籍を取得できる魅力も大きい。一方のデンマークは、言葉も文化も知らない上、コペンハーゲン市内の病院は既に満員で、出産するなら郊外まで行かなくてはいけないという。そもそも、妊娠後期になって、生活を一から立ち上げるっていうのはちょっと……。私はデンマーク行きには消極的だった。

 背中を押したのは、夫の一言だった。「デンマークで、病院から赤ちゃんを家に連れて帰ろう。そこで、3人だけで家族をスタートさせよう」。その温かい絵が目に浮かんできて、すとんとふに落ちた気がしたのだ。

 夫は、日本の里帰り出産のやり方では、赤ちゃんを育てるのが私と私の母親中心になってしまい、自分が出遅れることを危惧していた。子育ては夫婦2人が中心になり、かつ対等であるべきだ、という考え方で、我々の子育てのやり方が確立するまでは、夫の母親も家には寄せ付けないという。早速、首都コペンハーゲンで新しい仕事を見つけてきて、育児休暇をしっかり取るつもりだということ、デンマークはワーク・ライフ・バランスが抜群にいい国だから、育休後も仕事をしながら育児にしっかりと関われる、と私を説得した。

妊娠や子育てについてのデンマークの雑誌。全体的に落ち着いたトーン。それほど種類もない
妊娠や子育てについてのデンマークの雑誌。全体的に落ち着いたトーン。それほど種類もない

 娘が4歳になった今、振り返ってみて、デンマーク以外の選択肢はなかったな、と心から思う。それは、夫が私以上に育児のできる男に「仕上がった」ことや、北欧流のゆるい子育てが私を救ってくれたからなのだが、ここにたどり着くまでには、私自身がずいぶん変わる必要があった