仕事の経験を家事や育児に生かし、家事や育児の経験を仕事に生かす。二兎追って、二兎を得る好循環サイクルを生み出す秘訣を、各界で活躍する仕事のプロフェッショナルたちに聞く新連載。第3回目に登場いただくのは、大手広告会社、電通でコピーライターを務める魚返洋平さん。長女が生後1カ月のときから、約半年間の育児休業を取得。職場復帰した現在も、ほぼ毎日、朝8時半に保育園に送り18時にお迎えにいくなど、積極的に育児に関わっている魚返さんに、コピーライターとして培った経験をどのように子育てに生かしているのか伺いました。夫婦で一緒に行う子育てがもっと楽しくなるヒント満載の魚返流子育て術を、前編と後編に分けてお伝えします。

<電通コピーライター 魚返洋平さんインタビュー>
【前編】 「粉ミルク=父乳」言葉の力で夫婦子育て楽しく ←今回はココ
【後編】 読み聞かせで即興力発揮「まず自分が楽しむ」

「せめて気持ちだけでも、母乳に対抗したい!」

日経DUAL編集部(以下、――) 現在、2歳6カ月の女の子のパパとして、子育てに積極的に向き合う魚返さん。お子さんが0~1歳のときは、粉ミルクを「父乳(ふにゅう)」、うんちを「ブリット砲」、おならを「空砲」と呼んでいたとか。さすがプロのコピーライター! ネーミング一つで子育ての世界はこんなにもユーモラスになるんですね。まず、「父乳」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

電通コピーライターの魚返洋平さん。2017年夏から半年間育休を取り、その間、電通がウェブ上で運営しているニュースサイト「ウェブ電通報」上で連載コラム『男コピーライター、育休を取る。』を執筆して話題に
電通コピーライターの魚返洋平さん。2017年夏から半年間育休を取り、その間、電通がウェブ上で運営しているニュースサイト「ウェブ電通報」上で連載コラム『男コピーライター、育休を取る。』を執筆して話題に

魚返洋平さん(以下、敬称略) 「父乳」の説明の前に、前提としてお伝えしたいのは、魚返家では母乳と粉ミルクの混合育児を採用していたということです。当たり前ですが、妻が母乳で、僕が粉ミルクの担当になるわけです。すると、だんだん自分が母乳を出せないのが悔しくなってくる。母乳への羨望や嫉妬から、自分の劣等感が芽生えてきたのです。「せめて気持ちだけでも、母乳に対抗したい!」と。僕のそんな願望から生まれたのが、「父乳」という言葉でした。正直、粉ミルクを「父乳」と命名したところで、粉ミルクの性質自体は何も変わらないんですけど、劣等感は少し消えたかもしれませんね……(笑)。

―― なるほど。「父乳」は母乳への羨望や嫉妬から生まれた言葉だったのですね。では、「ブリット砲」や「空砲」はどのような経緯で生まれたのでしょうか? 赤ちゃんが突然うんちをする破壊力や、うんちだと思ったものがおならだった時の安堵感が見事に表せていて、さすがだなと感心しました。

魚返 お、それは、ありがとうございます。単純に「うんち」や「おなら」と表現するのではなく、新たに言葉を作ることで、楽しみながら夫婦で育児の情報共有ができたように思います。たとえば、「おならをしたんだよ」というよりも「空砲だったんだよ」と報告すると、「うんちかと思ったけど、おならだったからホッとしたよ」という気持ちまで共有できる。つまり、ただの状況報告ではなく、「状況+感情」報告ができるわけです。ちなみに、夫婦間でしか通用しない新たな言葉を、魚返家では「わが家スラング」と命名しています。

娘さんが0歳〜1歳の頃に生まれた、魚返家の「わが家スラング」の一部
娘さんが0歳〜1歳の頃に生まれた、魚返家の「わが家スラング」の一部

―― どれも、爆笑ものの面白さですね。やはり、こうしたネーミングセンスは、コピーライターというお仕事柄、培われたものなのでしょうか?