アウトプットしたことでポジティブになれた

―― 書記と言えば、魚返さんが職場で育児体験記を連載していた電通のニュースサイト「ウェブ電通報」の記事は、ツイッターでもインフルエンサーにリツイートされて話題になっていましたね。そうした育児体験記を書いたのも、「わが家の書記」だったことがきっかけなのでしょうか?

魚返 実は、育児体験記は、育休に入る前に自分自身で「これをやります」って言い出した連載でした。月1回出さなきゃいけないという納期もあるうえに、人に読んでもらうための工夫もしなきゃいけない、というプレッシャーもあり、子育てしながら定期的に執筆するのは大変でしたが、引っ込みがつかなくなってしまい……。

 ただ、連載を持って良かったのは、「子育て体験を言語化」する機会を得られたことです。言葉にするってことは、前向きな作業だと思うんです。たとえ、ネガティブな事柄であっても、言語化してアウトプットすること自体がポジティブな行動で、気持ちが整理されるメリットがあります。

―― アウトプットすることで、ポジティブになれると。

魚返 はい。さっきの話に通じますが、子育ては誰かと共有しにくいから孤独になりがちだと思うのですが、僕自身は、連載を通して、読者と子育て体験を共有することで、子どもと前向きに向き合えるというメリットを感じていました。今はツイッターなどのSNSで反応も見ることができるので、一方通行ではないコミュニケーションが生まれるのも面白かったです。

 中には、しゃべったり書いたりすることが苦手な人もいるでしょう。そういう人は、言語化以外のアウトプットでもいいと思うんです。絵が好きな人は絵を描いたり、写真が好きな人は写真を撮ったり。そうやって、アウトプットすることで、苦労や喜びを他者と共有しあえれば、子育てが少しは楽になるんじゃないかなと思いますね。

―― アウトプットする効果について、あまり意識していませんでしたが、今回のお話を通して、他者と共有することの価値を改めて実感しました。後編では、仕事で培ったスキルをどのように絵本の読み聞かせや保活などに役立てているのか伺いたいと思います。

 <後編に続く>

取材・文/児玉真悠子 写真/鈴木愛子

魚返 洋平(うがえり ようへい)
1981年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、電通に入社。以降、コピーライターとして、業種の硬軟や媒体の種類を問わず、さまざまな企画に携わる。2017年夏に第一子(女)が生まれ、約半年間の育休を取得。自社のニュースサイト「ウェブ電通報」で連載した育休体験記が話題となり、2019年に『男コピーライター、育休をとる。』(大和書房)として書籍化された。現在は、育児生活の雑感を「note」に投稿している。