「筋が通っていること」より「理解してもらうこと」が大切

―― 他にも、子育て経験から学んだことはありますか?

井出 プレゼン時の伝え方が変わったと言われます。今までは、「ロジカルに伝えること」を重視していましたが、「理解してもらうこと」のほうが重要だと気づかされました

 子どもって、さっき注意したのに!という失敗が多いですよね。例えば、そこに飲み物を置くと危ないよ、と言った直後にこぼしたり、「外から帰ったら靴をそろえようね」と言い続けているのに、すぐ忘れちゃったり。「いつも言っているのに!」と怒ってしまうことの連続です。でも、なぜ怒りの感情が湧くのかをひも解くと、「一度言ったら理解してくれるもの」という先入観が自分自身にあったんですね。

 子育てを通じて、「伝えた=理解してもらった」とは限らないことを知り、プレゼンでも「弊社のサービスの魅力を順序立てで紹介する」のではなく、「魅力を理解してもらうには、どのように伝えたらいいか」という受け手視点に立てるようになりました

 また、言い続けることの大切さも子どもから学びました。根気強く毎日言い続けていると、あるとき「ちゃんと靴をそろえるようになっている!」など、成長の瞬間に気づくことも。弊社のサービスの認知を上げるためには、諦めずに言い続けることが大事なのだと、そうした子どもの姿を見て、励まされました。

―― すてきな話です。子育てから学ぶべきポイントを見つけるこつはあるのでしょうか。

井出 子育てと仕事を別物として切り離すのではなく、相乗効果を見つけて、片方の経験を片方に生かすような発想が欠かせないと思います。【前編】でもお伝えしたように、仕事で得たスキルや視点の中にも、子育てに生かせるものはたくさんあります。

―― とても参考になります。最後に、井出さんが仕事を持つママとして、企業の経営者として、お子さんに一番伝えたいアドバイスを、ぜひ教えてください。

井出 「自分を主語にして語れるようになりなさい」ということです。これからの世の中は、ますます「自分の考えを持っている人」が求められるようになると思っています。なぜなら、AIの時代では、誰にでもできるようなルーチンの仕事は残らないからです。

 だからこそ、自分の意見をしっかり持ち、それをアウトプットできる子になってほしい。そのために、私自身が、そんな姿を子どもたちに見せることを大事にしています。

 たとえ、3歳の娘が相手であっても、自分を主語で語るようにしています。例えば、家で食事をする際、娘は私に甘えて、『ママのお膝で食べたい』とせがむのですが、ある日、非常に疲れていて、どうしてもその日は、私一人で座って食べたいという日がありました。そこで、娘に「ママはきょうはとっても疲れているから、ゆっくりと夕食を食べたいんだ。だから、一人で座ってくれる?」とお願いしました。娘なりに理解したようで、その日は、渋々ですが、一人で座って食べてくれました。

―― 「もう3歳だったら、一人で食べなくちゃ駄目だよね」のような一般論にせず、親自身が自分の考えを伝えることが大事ということですね。参考になるお話、ありがとうございました!

取材・文/児玉真悠子 写真/鈴木愛子

井出 有希氏(いで ゆき)
シェアダイン 共同代表
1978年、高知県生まれ。東京大学経済学部卒業後、2000年に新卒でゴールドマン・サックス証券に入社。9年にわたり主に自動車・自動車部品セクターの株式アナリストとして働く。2009年に米系資産運用会社であるアライアンス・バーンスタインに転職するも12年にチーム解散を経験。ボストン・コンサルティング・グループを経て17年に友人と共にシェアダインを創業。1男1女の母。