「アンコンシャスバイアス」という言葉を知っていますか。直訳すると「無意識の偏見」という意味で、最近、企業研修などで盛んに使われるようになった言葉です。女性は管理職に向いていない、子育て中は仕事をセーブすべき……こうした「無意識の偏見」を取り払うことで、自分の本当の思いに気づけたり、多様な人材が実力を発揮できたりするといわれています。

人間なら誰しも持っている「アンコンシャスバイアス」。その正体を、社会人やスポーツ選手のメンタルトレーニングを手掛ける心理学の専門家に聞きました。

「無意識の偏見」は、決して悪いものじゃない

日経DUAL編集部(以下、――) 近頃、「アンコンシャスバイアス」という言葉を耳にすることが増えましたが、一体どういうものでしょうか?

筒井香さん(以下敬称略) 「あの人は関西人だから、きっとお笑いが好きなんだろう」「保育園の先生だから優しいだろう」など、私たちは相手の出身地や職業、性別などで、無意識に「~だろう」というイメージづくりをしていますよね。分かりやすく言えば、これが「アンコンシャスバイアス」です。

 「アンコンシャスバイアス」は直訳すると「無意識の偏見」という意味になります。自分では気づかない先入観や思い込みによって、偏った捉え方をしてしまうことを表します。

―― 最近は企業でも、アンコンシャスバイアスについて学ぶための研修が取り入れられているようです。

筒井 企業での代表的なアンコンシャスバイアスの例が、「女性は管理職に向いていない」「子育て中の女性に重要な仕事は任せられない」といった考え方です。実際には女性にも管理職向きの人はいるし、子育て中でも責任をもって重要な業務を担当している人がいるのに、「女性である」「子育て中である」というラベル付けで、一定のイメージで固められてしまい、周囲も、また当事者自身も、そうした思い込みからなかなか抜け出せないケースがあります

 自分はそんな偏った考え方はしない、と思われる方もいるかもしれませんが、アンコンシャスバイアスは、これまでの経験や環境など、成長する過程で無意識に身に付くもの。大人であれば、誰もが何かしらのバイアスをもって生活していると言っても過言ではありません。

―― なぜ、そのような「無意識の偏見」が生まれるのでしょう。

筒井 人間が生きていく上で必要なものだからです。アンコンシャスバイアスは悪いもので、それを持つ人はダメな人、と思われることが多いようですが、そうではありません。例えば、アンコンシャスバイアスには、コミュニケーションに役立つ側面もあります。初対面の相手と会話する場合、相手の出身地や職業という情報は、相手を知る手がかりとなり、一定のイメージを膨らませるのに役立ちます。

 例えば、冒頭の「関西人だから~」や「保育園の先生は~」などもそうですよね。実際には関西人でも全員お笑いが好きとは限りませんし、保育士さんにもいろいろな人がいます。しかし、無意識のバイアスがイメージを膨らませる助けになり、会話が弾んだり、相手を素早く理解できるようになったりするのです。さらに、「この雰囲気の通りは治安が悪そうだから気を付けよう」などのように、バイアスを持つことで危機回避に役立ったりもするわけです

 アンコンシャスバイアスはコインの表裏のようなもので、良い面と悪い面の両方があります。ですから、持ってはダメと考えるのではなく、うまい対処法を見つけて賢く付き合っていくのが大切です。

社会人やスポーツ選手のメンタルトレーニングに詳しい筒井香さん
社会人やスポーツ選手のメンタルトレーニングに詳しい筒井香さん