自分が学ぶ姿を、後輩たちが見ている

廣瀬 3月に引退して、東芝に勤務しながら短期的にいろいろな仕事をやっていたのですが、なんか違うな、どうしたらええんやろな、と。そんなときに、大学院に進学したらどうか、というお話をいただき、ああ、そういうタイミングなのかなと思いました。

 というのも、ラグビーについてはひとつやりきった感があったのですが、そうなると燃えるものがないんですね。燃え尽き症候群というんでしょうか。何か自分が追い込まれるものが欲しかった、これが進学の理由の1つです。

 もう1つの理由は、それまでラグビーをやってきた中でビジネスパーソンと話す機会が何度もあったのですが、そのたびに、もっと深く突っ込んだビジネスの話をしたい、と感じていたことです。ビジネスの基礎的な知識は、自分が今後どんなキャリアを積んでいくにしても必要だと感じていました。加えて、自分が学びを通してキャリアを築いていく姿を、後輩の選手たちが見ているわけで、スポーツ選手のセカンドキャリアの道筋をつけることにもつながれば、という思いもあった。

MBAへの挑戦について語るラグビー元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さん

―― 今秋、MBAを取得されました。東芝に勤務しながらの学び直し、苦労もあったのではありませんか。しかも、2019年は日本でラグビーW杯が開催され、テレビドラマ『ノーサイド・ゲーム』にも出演されるなど、とても忙しかったはずです。

廣瀬 可能な限り4時半に起きて、朝の時間を活用しました。BBT大学大学院は100%オンライン講義なので、仲間とのディスカッション課題もオンライン上での書き込みで行うんです。自分も通勤時間や移動時間を利用して、動画講義を視聴するだけでなく書き込み形式のディスカッションにもよく参加しました。日本国内だけでなく、カナダやドイツなどから参加している人もいて、しかも年齢も所属する業界もさまざま。そんな人たちとのディスカッションに入っていき、自分の考えを言語化して伝える、それに対して周りからフィードバックをもらう、あるいはこちらから返す。その繰り返しです。これはホントに役に立ちました。書き言葉は話し言葉と違ってごまかしが利きません。ビジネスに役立つボキャブラリーが格段に増えたし、思考を整理して伝えるとてもいいトレーニングになりました

スクラムユニゾンという「イノベーション」

―― 学んだことで、自身の中で何が変わったと感じていますか?

廣瀬 とにかく知識が増えました。これまで見たこともなかった貸借対照表や損益計算書などが読めるようになった。統計解析やガバナンス的なことなども初めてきちんと学びました。会社の数字を読めるようになったことで、これまでなんとなく見てきた時代の流れみたいなものをリアルにつかむことができました。

 一方、組織論やリーダーシップ論などは、自分がキャプテンとして実際やってきたことと変わらない、と確認できました。実践してきたことに言葉や理論が与えられると、再現性と汎用性が得られる。これがとても大きかったと思いますね。

 あと、大好きだったのが「イノベーション」の講義。あれは面白かったなあ。「違うもの同士を掛け合わせることでイノベーションが起こる」という考え方を学びました。今年のW杯で、出場国から来る人々を、その国の国歌などで歓迎するプロジェクト「スクラムユニゾン」を立ち上げたんですが、あれはまさに、「掛け合わせによるイノベーション」を実践したものだと思っています。