自分の価値を知り、劣等感を手放す

 下から目線だったのは、英語が第2言語で、ベテラン特派員のように詩のような美しい原稿を書けないことに劣等感を抱いていた、という理由もあると思います。

 それは私の態度にも出ているようで、社内で応募した仕事の面接後、「マリコは口ではいいことを言っていても、『私よりもっと経験のある人がいるのに、私なんかが応募してごめんなさい』というオーラが出ていた」と面接官から言われたことも。

 そんな時、カリシュマに薦められて読んだアメリカのテクノロジー記者、カラ・スウィッシャーさんのインタビューにパワフルなアドバイスが載っていました。

 「私はワシントン・ポストでインターンに応募した時、『ここにいる誰よりも私は実力がある。あなたは私を雇うべきだ』と言った。その後もそう言い続けた。謙虚になれと言う人もいるけどなぜ? 私に実力があるという事実を述べるのは自慢じゃない」

 そこまで強気な発言をする自信は持てなくても、ネイティブの記者のような記事が書けないのは、私が日本語を話せることの裏返しなんだ、だから劣等感を抱く必要はないんだと、自分に言い聞かせるようになりました。

 自分自身の価値を知る。

 それは私が大学を卒業した直後、父にも言われたアドバイスです。

 オーストラリアの大学に在学中、現地のテレビ局で学生インターンを経験。現地での就職も試みましたが、ジャーナリズム学部の新卒の学生が何千人もいるなか、わざわざ日本人の私に就労ビザを取ってまで雇ってくれるという会社はありませんでした。

 アメリカならなんとかなるかも! と深く考えずにニューヨーク行きを決め、父に「いずれ返すから」と経済的援助を頼み、3カ月間観光ビザで渡米し就職活動をしました。でもアメリカでも就労ビザを取ってくれる会社は見つからない。

 もう少しニューヨークで就職活動を続けたいと言う私に、父はこんなアドバイスをくれました。

 「今の真理子の実力では、日本語が話せてもアメリカやオーストラリアの会社にとってあまり価値がない。でも日本なら、日本語と英語が話せて、たとえ学生インターンでもテレビ番組制作の経験があれば、仕事を見つけられる可能性がある。スキルは持っていることも大切だけど、その価値が一番ある場所を知らなければ、持っている意味がない

 当時の私は悔しくて、渋々日本に帰りましたが、その後、東京でブルームバーグとロイター両社から仕事のオファーをもらえたことを思えば、とても的確な言葉だったと思っています。

 その後BBCに入社し、早13年。24歳・独身だった私が、二児の母になりました。自分の出産費用や、子どものお稽古費用についてのリポートなど、母になったから問題提起できたニュースもあります。

 そしてつい先日、BBCのケィティ・ワトソン中南米特派員が、「大統領インタビューと搾乳の両立」についての記事を書いていました(該当記事のURLは末尾で紹介)。

 少なくともBBCでは、「働く母」は(もちろん両立は大変ですが)会社に貢献できる「価値」になっていると感じています。

 でも、我々が自分の価値を信じ、発信し続けなければ、社会も変わらない

 私が育児と仕事の両立で悩んでいる時に先輩女性記者がこんな言葉を掛けてくれました。「マリコが今抱えているその悩みを、ミク(長女)が抱えていると置き換えて考えてみて。世界で誰よりも愛する娘にどうアドバイスする? それをそのまま今の自分に言ってあげればいい」

 子どもたちが親になる頃には、「マミートラックって何?」と言えるようになっていてほしい。そう願ってやみません。

BBCのケィティ・ワトソン中南米特派員の記事:How BBC's Katy Watson pumped breast milk through polls and protests