たくさんのヒットではなく、数本のホームランに集中

 その夜、ロンドンのBBCワールドニュースの報道局長に、弱音満載のメールを送りました

 彼女も一男のママ。ロンドンに戻り昇進する前は、シンガポールの支局長を勤めていました。産休が明けてすぐシンガポールに赴任し、育児と仕事を見事に両立しつつも、私が一人目を妊娠した時、涙ながらに喜んでくれた彼女は、私の中でワーママのロールモデル。

 彼女からの返事には、「子どもたちが小さい間は、多くのヒットじゃなくて、数本のホームランを打つことに集中しなさい」という言葉がありました。

 それは、出産後もどんな速報も絶対に逃したくないと、休暇中も常にスタンバイし、チャンスがあれば「取材したい」と手をあげ続けてきた私にとっては、目からうろこのアドバイスでした。

 よし、東京五輪のメインキャスターを目指そう、とその時決めました。

 第2子の息子を出産し、産休から復帰してまもない頃、ロンドンで3年ごとに行われる戦地報道のためのトレーニングに二人の子どもを連れて参加(戦地だけではなく、デモや被災地からの取材にも必要となるトレーニングで、3年ごとに必ず受講しなければなりません)。

 訓練の後、夫と子どもたちだけ義理の両親のところに行っている間、私はロンドンに残り、15人ほどの上司に会って、「私をオリンピックキャスターとして使ってください」と猛烈にアピールしました。

 オリンピック報道は、イベントとしての取材だけではなく、イギリス国内での放送用に英国チームについても深い知識が必要とされるため、私にとってはかなりハードルの高い仕事。その目標に向けて、私自身のスキルアップのための経験を積む必要がありました

 スタジオからのキャスター業と現場からのレポーター業だけではなく、「現場からのキャスター業」が求められる職種。この経験を積むため、シンガポールの上司に懇願し、2018年4月の南北首脳会談で初めて「現場からのキャスター業」のチャンスをもらいました。おそらく、あの夜メールをしたロンドンの報道局長の後押しもあったと思います。

韓国と北朝鮮の軍事境界線にて
韓国と北朝鮮の軍事境界線にて