現場に行きたくても、行けない……

 半年間のロンドン勤務を終え、妊娠8カ月でシンガポールに戻り、長女を出産。その数週間後に、香港で民主化を求めるデモが起きました(2014年)。このとき私の心に湧き上がったのは「現場の取材に行きたい」という、記者としての思い。たまらず上司に連絡をしましたが「産休中に仕事のアサインはできない」と言われました。

 このとき初めて、現場取材を行う記者の仕事と、育児を両立するのは難しいのだと気付きました。そして、もう十分だと思っていたシンガポール支局のニュースルームでの仕事や、スタジオでのキャスターやレポーター業のほうが、勤務時間も読めて、働くママには両立がしやすいことにも。

 娘の出産後、3カ月で、スタジオでの仕事に復帰しました(注:シンガポールでは産後3カ月程度での復職が一般的)。半年は実家の母や義理の母、当時独身だった義理の姉にも来てもらい、生後9カ月から、BBCオフィスと同じビル内にある保育園に入れました。

周囲のサポートがあるから続けられる

 シンガポールでの勤務には、2つのシフトがあります。午前4時から正午までの早番と、午前11時から午後7時までの遅番です。早番の日は、娘や夫がまだ寝ている間に起きて出社するため、子どもの朝の準備をしてあげることはできません。でも、週末は原則休みです。シンガポールを離れる海外出張の行き先は、できるだけ日本を選ぶようにし、その間は実家の両親に娘を預けるようにしました。

 そして約3年後に息子を妊娠。第2子の時は、出産3日前までスタジオからキャスター業をしていました。もちろん周りのサポート体制があったからこそできた離れ業です。「マリコが産気づいた場合の連絡先」という紙がオフィス中に貼られていました。

 「あなたの体調はあなたが一番よく分かっているはず」と、私が行きたいと言う出張には行かせてくれた上司も、3人のママ。みんなに迷惑をかけているんじゃないかと心配する私に、「みんな慣れてるよ」と励ましてくれた先輩ママの記者。

 子どもが大きくなるとともに、育児との両立の難しさは日々変わっていますが、彼らのおかげで私の「ワーママキャスター業」は成り立っています。