上司の態度が明らかに変わってきた

 「人間的には苦手だけれど、営業マンとしては優秀な人。避けていても状況が変わらないなら、思いきって懐に飛び込んで積極的にスキルを盗み、転職できるくらいの力を付けてやろうと決意。関わるうちに、上司に対する見方も変わるかもしれないと考えました」

 「おだてに弱い」という上司の性格を逆手に取って、尊敬している点を具体的に褒めた上、「勉強したいので、ぜひ営業の現場に同席させてください!」と頼み込んだ。自分から距離を詰め、積極的に質問を繰り返すマミさんを見て、上司の態度が次第に変わっていったという。

 「それまで『〇〇をやって!』と雑に命じられるだけでしたが、『これをやることでこういう結果につながるから』と、その背景を具体的に説明してくれるように。参考になるからと、自分が読んだ本を紹介するなど、対応が明らかに変わってきたんです」

 実際、営業の現場に同席することで、クライアントとの関係性の築き方など、学ぶべきスキルが多かったと話す。

 「それまで、顔を見るたびに嫌悪感があったけれど、上司が営業成績を上げるためにどれほど努力をしていたかも分かり、見方が変わりました。人間的には苦手だけれど、仕事の面では得るものが多いと認められるようになったことで、感情と仕事を切り離して考えることができるように。その後、転職しましたが、苦手な相手に振り回されず、業務に集中できるようになったのは、このときの経験が生きているのかなと思います

社の雰囲気がブラック化を助長

 2人のケースから見えてくるのは、ブラック上司を生み出す組織の環境だ。さゆりさんの会社では、ワンマン社長がにらみを利かせ、ミスが許されない雰囲気。マミさんの場合は、営業成績によって社員のヒエラルキーが決まるというプレッシャーが、上司を自己保身に走らせていた。

 組織の環境が一因とはいえ、実際にこうしたブラック上司に出会ってしまったら、どう対処すればいいのか。また、自分自身も「ブラック化」しないために、できることはあるのだろうか。次回は、ブラック上司を反面教師にして、自身のマネジメントスキル向上につなげた読者のケースを紹介する。

取材・文/西尾英子 イメージカット/PIXTA