指示に一貫性がなく、上と下では態度が変わる

 「また今月も借金が増えてるぞ。一体いつになったら一人前になるんだ?」――。壁に貼り出された営業成績のグラフを見ながら嫌みを繰り返す。時には、残業して反省文を書くように命じられることも……。

 以前、広告代理店で営業として働いていた川崎マミさん(仮名・33歳)は、当時の状況をこう振り返る。

 「売り上げがノルマに達しないと、不足分が会社への借金になるという社内ルールがありました。だんだん『会社に借金があるのだから上司に従うしかない』『ノルマをこなせない私が悪い』と考えるようになっていました。今思えば、ブラック企業と上司に洗脳されていた状態だったのでしょうね」

 社員10人ほどの小さな会社で、ほぼ全員が営業担当。営業成績によって社内のヒエラルキーが決まるようなところがあり、常にピリピリとした雰囲気があったという。トップ営業マンだったマミさんの上司は、部下が意見しようものなら声を荒らげる。一方で、社長には歯の浮くようなお世辞を言う「ヒラメ上司」だった

 部下の都合などお構いなしにたばこや飲み物を買いに行かせる。指示に一貫性がなく、上司自身も言った言葉を覚えていない。休日に駆り出されることも少なくなかった。マミさんが改善を申し出ると、「その態度はなんだ」と説教が始まり、過去のミスを引っ張り出して責められた。

 「それなのに、こちらが『辞めたい』と言い出すと、急におだてて引き留めるんです。自分のせいで辞めたと思われるのが嫌だったのと、ストレスをぶつける格好のターゲットがいなくなると思ったのでしょう」

 関わりを避けたくても、直属の上司ではそうはいかない。そこで、マミさんは、自分から接し方を変えてみようと心を決め、「懐に飛び込む作戦」に出た

画像はイメージです
画像はイメージです