反省文を書かされて人事評価の材料に

 また、社長の顔色ばかりをうかがう上司に対して、さゆりさんが「それでは筋が通りませんし、取引先も納得しませんよ?」と反論すると、個室に呼び出され、上司の主張を受け入れるまで帰してもらえないこともあったという。

 前職から好条件で転職したさゆりさんには、寄せられる期待も大きかったのかもしれない。「とはいえ、私にこなせないような水準の業務を大量に振られ、それによってミスが出ると厳しく叱責されました。さらに、記録として反省文を書かされ、それを人事評価のときに持ち出されたりもしました」

 さゆりさんは社長に直訴し、異動を申し出ることを決意。「ランチタイムで時間内に席に戻っているにもかかわらず、『離席が多いし、長い』と言われたため、離席時と席に戻った時に、時計を写真に撮って記録。上司からのメールの履歴を保存し、個室での叱責も録音し、社長との面談の際に、証拠として提出しました。社長は、私の話に同意する姿勢を見せてくれていたので、理解してくれたと思っていたんです」

自分の部下への態度を振り返るきっかけに

 しかし、なんのおとがめもないまま、当のブラック上司は昇格。「結局、私の言葉は聞き流されていただけだったんです。後から、面談で伝えた内容を全面的に上司が否定し、それに社長が同意していたことを知りました」

 上司が自己保身に走る背景には、ミスが許されない会社の雰囲気もあった。実はそもそも社長自身が、ワンマンでパワハラ気味だったという。「社長は、ブラック上司を自分の後任にと考えているようです。私がこのままここにいても改善が望めないので、結局また、転職活動を始めました」

 散々な目にあったさゆりさんだが、ブラック上司のネガティブな対応でつらい思いをしたことは、自身の部下に対する態度を振り返るきっかけになったという。

 「それまで私も、部下にこちらの意図が伝わらないと、能力がない、やる気がないと決めつけていたところがありました。けれど、それを繰り返すと、部下が萎縮して内向的になり、質問もできなくなると身をもって知りました。相手に届く球をきちんと投げることが、上司の務めだと認識しましたね」