「5W1H」で、部下が上司の思考を整理する

 「メールに次いで、ブラック行動が生まれやすいポイントが『資料作り』と『会議・打ち合わせ』です。例えば、上司から作成を頼まれた資料に、後からどんどん注文が加えられていき、作業が延々と続いてしまう。これは、上司がアウトプットのイメージを描けていないことや、指示内容を整理して伝えるという基本的なスキルが欠けていることが原因です

 とはいえ、上司の能力不足を嘆いても、事態は解決しない。部下のほうから、資料の期限や目的を聞いて必要事項を整理してあげよう。

 「その際には、ビジネスの基本である“5W1H”のチェックを用いることです。Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)、という項目に照らし合わせて、質問を投げかけて確認することで、アウトプットのイメージを共有でき、ムダな作業を防ぐことができます」

 また、上司から「ちょっといい?」と声を掛けられ、そのままズルズルと長時間拘束される、というのもビジネスではよくあるシーン。PC作業などで分からないことをヘルプデスクのように部下に聞いてくる上司も、困りものだ。「すみませんが、今〇〇で手いっぱいです。△時から□分間でしたら時間が取れます」「〇時には帰らなくてはいけないので、それまででしたら大丈夫です」などと、あらかじめ終わりの時間を伝えることで、上司に「部下の時間にも限りがある」ということを認識してもらいやすくなるだろう。

 とはいえ、上司の側に必ずしも悪意があるとは限らない。「露骨なパワハラ上司は別ですが、ブラック上司と言われる人の多くは、仕事に一生懸命で、悪気がない人が大半です。上司自身も忙しく、部下の一人ひとりの状況をきちんと把握する余裕がないことが、ブラック化する一因にもなっているのです」と、柴田さんは指摘する。

 上司のブラック化を防ぐには、部下のほうからも、自分の状況をきちんと伝え、理解を促す努力をすることが大切だ。育児によって労働時間にどの程度制限があるのか、どのようなスタンスで仕事と育児を両立していきたいか、そのために仕事の進め方のどんな点を改善してほしいかを、具体的に提案してみるのも1つの解決策。一人で行動するのが難しければ同僚に協力を仰いだり、どうしても困った場合は人事・労務担当や、社内の相談窓口に相談してみたりする方法もある。

 「上司にとって最も怖いのは、優秀な部下の心が離れていくこと。部下がどんなことに困っているかを知り、そのための道筋が分かれば、上司も少しずつ行動を改善しようと思うはずです」と、柴田さんはアドバイスする。

 柴田さんは他にも、保身のためにコロコロ意見を変える「風見鶏上司」や、上への態度と部下への態度が違う「ヒラメ上司」などの存在を指摘。次回は、こうした上司への対処法を紹介します。

*2019年7月から実施中のアンケートの中間集計。回答者39人中26人が、ブラック上司に出会ったことがあると回答


柴田励司
柴田励司 Indigo Blue代表取締役。1962年東京都生まれ。85年上智大学文学部卒業後、京王プラザホテル入社。在オランダ大使館出向、京王プラザホテル人事部を経て、95年現マーサージャパン入社。2000年、38歳で日本法人社長に就任。その後、キャドセンター社長、デジタルハリウッド社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任し、現職に至る。著書に『もしかしてブラック上司?』(ぱる出版)、『入社1年目からの仕事の流儀』(大和書房)ほか。

文/西尾英子 写真/洞澤佐智子、PIXTA