2年前に男の子を出産した、作家の柚木麻子さん。子どもを保育園に預けながら、長編小説『マジカルグランマ』(朝日新聞出版)を書き上げました。母になり、作家としてもさぞ充実した日々を送っている、と思いきや…? 1回目に続いて今回も、「完璧なママ」について葛藤している柚木さん。トライ&エラーを繰り返す毎日の様子と、今感じていることについて語ってもらいました。

コードネーム「〇〇君ママ」で呼び合う

 皆さん、こんにちは! 相変わらず燃える車に乗って走り回るような毎日を送っている柚木麻子です。

 先月、保育園で夏祭りがありました。初めての夏祭り! 息子のためにAmazonでちっちゃなハッピを買い、送り迎えのときに顔を合わせるママたちとは、「お祭りのときにしゃべろうね!」と合言葉みたいに言い合って。普段は忙しくて深く言葉を交わすこともできないので、そりゃあ楽しみにしていたんです。

 ところが、夏祭りの直前に、息子のクラスで手足口病がまん延。お祭りの日、休日でも診てくれる近所の小児科に息子を連れて行ったら、同じクラスのママたちが何人も青ざめた顔で、ぐったりした子どもをそれぞれ抱いていて。「夏祭り、行けない」「私も……」「運動会は出ようね」「うん」。

 こうして夏祭りの日に私たちの間に芽生えるはずだった友情は、運動会まで持ち越されてしまったのでした。

 よく世間では「ママ友の人間関係ってドロドロだよ」などと言いますよね。それがドラマのテーマになったり、雑誌の特集記事になったりもしています。でも、息子が通う保育園のママたちを見る限りでは、疲れてドロドロではあっても、人間関係はドロドロじゃありません。だって、そんな時間ないもの

 お互い職業も知らなければ、名前も知らない。私はほかのママたちから「〇〇君のママ」としか識別されていないと思います。これはコードネームであって、そこには、「〇〇君のママである前に、1人の人間よ! アサコよ!」といった感傷が入り込む余地は1ミリもありません。誇りとか内省とか、言ってるヒマなんてありゃしない。これがワーママの現実だとしみじみ感じています。