産んだ瞬間、輝くママに変身できるわけじゃない

 小説家の先輩たちからは「もっと頑張れ」と言われるのかなあ。そうなんです、私、もっと頑張ればよかった。でも、気を抜いたわけじゃありません。可能な中でギリギリまで頑張ったんですよ。とはいえ、魂込めて睡眠時間を削って書いたかというと、自信がない。誰かに「もっと魂を削って書け」なんて言われたら、しょうがないじゃん、できないよ、って思ってしまうんだろうなあ。

 子どもを産んだら、すごいパワーが湧いてきたとか、集中力が高まったという話、よく聞きますよね。出産前の私は、「ママになったら、自動的に素晴らしいパワーの持ち主になれる、偉人になれる」とどこかで思っていました。

 ところが、産んでも凡人の私は凡人のままだった。子どもの顔はいくら見つめても飽きないけれど、本当にかわいいと思うけれど、パワーはちっとも湧いてこない。昨日の私のままで、体力は落ちているというのに、今までやってきた以上のことをやらなくてはダメというワーママの現実に、心底ビックリしました。

 同時に、ほかのお母さんたちも、実は「偉人化」したわけではなく、みんな昨日の自分のまま、一から頑張ったんだということにようやく気づいたんです。先に子どもを産んだ友達に、知らず知らずのうちに失礼なこと言っちゃってきたかもと、心配にもなりました。

 乳飲み子抱えてやっとの思いで小説を書いた、っいう私の話も、どうなんでしょうねえ。「柚木さんは頑張って書いたんだから、おまえも頑張れよ」と、どこかで私より若い作家さんに「圧」をかけることになったりしないのか。無理せずやらないで、破綻しときゃよかったのではないか。途中で投げ出して「柚木さんって、育児がつらくて途中で泣いて連載を放り出したらしいよ」って、言われときゃよかった。そのほうが、ずっと周りの人をエンパワーメントできるじゃないですか

 仕事も育児も家事も、全部が50点。でも、それでいいじゃん、って思いながら、今日も机に向かいます。

構成/平林理恵 写真/洞澤佐智子