ハラスメントへの意識が高くなっている現代。マネジメント層は「部下に聞きたいことを聞けなくて困っている」という悩みを抱えがちです。「パワハラ上司」にはならずに、仕事の進行管理をうまくするためにはどのようなことを心がければいいのでしょうか? そして、家庭に「上司・部下」のような上下の人間関係を持ち込まないようにするための心掛けとは。数々のビジネスパーソンの悩みを見聞きしてきた産業医の大室正志さんに聞きました。

安全配慮義務と個人情報はてんびん関係?

―― 前回は部下の悩みについて聞きましたが、「悩める上司」も増えてきているそうですね。

 「『部下の働きやすさ』は以前よりも改善している半面、『上司でいるのがしんどい』と悩んでいる管理職の皆さんからの相談をよく受けます。人々のハラスメントへの意識が高くなったのは素晴らしいことですが、プロジェクトの進行管理を担わなくてはいけないマネジメント層は、部下への聞き方や声かけに頭を悩ませている方が多いです。

 まず、皆さんに知っていただきたいのが、欧米諸国と日本の前提条件の違いです。日本は欧米と比べて解雇規制が非常に厳しい国です。解雇規制が厳しいとはどういうことかというと、被雇用者は簡単にクビにされることがないということです。その代わりに、ある程度の個人情報は渡さなければならない。

 例えば、米国では『健康診断の結果を会社に知られるなんてとんでもないことだ』と思われています。健診結果は究極の個人情報ですからね。ですが、日本では健診結果を産業医がチェックをし、時には就労制限をかける。会社は簡単に被雇用者のクビを切らないからこそ、社員の健康と安全に配慮する必要性があります。つまり、会社の安全配慮義務と被雇用者の個人情報はてんびん関係にあるのです」