男性も育児を当たり前にしていく時代。でもそれにはさまざまな困難が待ち受けています。本連載では、「お父さんの支援」をライフワークとする、産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大さんが、医療現場で日々感じている「パパの育児」の課題を整理し、解決のためのアドバイスを提案していきます。第4回は、これまで取り上げたような失敗談やすれ違いを避けるカギになる夫婦の「目線合わせ」について考えます。

【「男性育休時代」の今だから考えたいこと】
これまでのラインアップ

産婦人科医として「男性の産後のうつ」に抱く懸念
父親の育児トラブル体験談「これで私は後悔しました…」
「妻に信頼されるパパ」になる準備は妊娠中から

夫婦で「ゴールポスト=目標」を意識しよう

 「父親の育児支援」に取り組む、産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大です。

 過去3回の記事では、男性の育児が抱える社会的問題や時代の変化を整理しました。男性の育児には「教育」「経験」「支援」のいずれもが不足していること、社会制度が先行しながらも支援が不十分で板挟みのお父さんが多いことを問題提起し、「理想的な父親」ではなく、「誰もがなれて、楽しく育児に取り組める父親」になることが重要と述べました。また前回の記事では夫婦の「目線合わせ」(同じ考え方になる)の大事さについてもお話ししました。

 今回の記事では、夫婦の「目線合わせ」には何が必要かを考えていきます。


 妊娠中、夫は「妊婦の支援者」、産後は「育児のパートナー」となる必要があります。このどちらにおいても大事なのが、夫婦で目標を共有することです。

 例えば「今のあなたの状態を妻と共有してください」と突然言われても、的確に説明できる人は少ないはずです。一方、この質問を「出産までにあなたたち夫婦は●●な状態になっていなくてはいけませんが、今のあなたの状態はどうかを共有してください」とすると、ぐっと答えやすくなるのではないでしょうか。ここにで出てきた「●●な状態」が、この夫婦の目標です。「今の状態」を夫婦で把握して、夫婦で目線を合わせるためには、共通の「ゴールポスト=目標」が必要ということになります。

 ただ、育児において難しいのは、明確な目標が設定しにくいこと。子育てには日々たくさんの問題が出現し、目標を設定する間もなく、過ぎ去っていくからです。だからこそ、妊娠中の出産という明確な目標を生かさない手はありません。育休を取れば「復職」や「保育園の入園」なども夫婦共通の目標になります。これらの「ゴールポスト=目標」に向けて、自分たちはどうありたいかの理想像を共有することから始めましょう。

 例として、「育休終了、復職のスムーズなスタート」を目標に置いたとします。復職後は、日中は子どもを保育園に預けることになります。お迎えは誰が、どの頻度で行えばいいでしょうか。緊急時の対応は? 持たせる荷物の整理は? どちらかが帰るのが遅くなるときの対応は?

 目標を設定すると、このように具体的な課題が明らかになります。すると次に「その課題を解決するために何をすべきか」が見えてきます。

 例えば夫婦で子どもの状態を把握する時間を持つ、緊急時にどちらが仕事を切り上げるか、遅くなるときはどう連絡するか、といったことに関してルールを決めておく……など。課題が特定できていれば、対応できることは少なくありません。妊婦・新生児・乳児・幼児には「突然のトラブル」がつきものなので、そこに対応するための余力を持つことも考えておく必要があります。

 これを復職後に考えるのでは遅いでしょう。なぜなら、復職後は両親のやることがどんどん増え、忙しくなっていくからです。そんな中で、トラブルが起きたときの対策を考える時間は十分には取れません。だからこそ、妊娠中に目標を共有して、相談しておくのが大事です。