男性も育児を当たり前にしていく時代。でもそれには様々な困難が待ち受けています。本連載では、「お父さんの支援」をライフワークとする、産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大さんが、医療現場で日々感じている「パパの育児」の課題を整理し、解決のためのアドバイスを提案していきます。第1回は、一定数存在する、知られざる「産後にうつになる父親たち」の存在についてです。

「産婦人科医」が「お父さん」の支援をする理由は

 産婦人科医・産業医・医療ライターをしております、平野翔大と申します。

 「産婦人科医」というと、女性のための医者、という印象が強いとは思いますが、私が今ライフワークとしているのは「お父さんの支援」。ちょっと意外かもしれませんが、「女性が健康的に生きられるか否かは、周囲にいる男性のあり方によって大きく左右される」と考え、このテーマに取り組んでいます。

 産婦人科医として現場で診療していると、日々女性や妊婦の様々な問題に直面します。そしてその中で、私が感じていたのは、その周りにいる男性の問題。上司、同僚、そして夫。様々な「男性」が作り出している問題があり、「世の男性は何をしているのだ……」と思っていました。

 その後、私は産業医としても働き始めました。産業医は企業において、労働者の健康管理を行うのが主な仕事。「健診や休職と復職で面談する人」という印象が強いかもしれませんが、実は幅広く様々な健康管理や、組織のハラスメント問題などにも関わります。産業医として企業側から家庭を見ると、実は社会制度など様々な背景が「父親を苦しめている」のではないかという疑念が生まれました。

 そうした問題意識もあり、私は「日本の父親」の問題を解決したいと、数多くの「お父さん」たちにヒアリングを行いました。その中で「共通する問題」が存在することに気付いた私は、今回の連載を通じて、その問題を皆さんにお伝えできればと、この場を借りて発信させていただきます。

 令和の時代、男性も育児をするのは当たり前になりつつあります。2010年に「イクメン」という言葉が流行語大賞で選ばれ、男性の2020年の育休取得率は12.65%(※1)と前年比で1.7倍となり、育児休業でなくても何らかの形で休暇を取得している人は半数近くいます(※2)。

 しかし、私はヒアリングで、育休などを取得した多くの父親の悲痛な声を聞いてきました。

 「何をやっても怒られる」「何を知ればいいのか、それすら分からない」という父親の声に対して、母親からは「何かやってもらうと、かえって作業が増える」「一人のほうがやりやすいから、むしろいなくていい」という声も聞こえてきます。

 実際に、日本では妊娠期から育児期にかけて、夫は妻への信頼感が高まる半面、妻の夫への信頼感は減少するという悲しいデータも存在します(※3)。

 「育児をするのは当たり前」になろうとしているのに、夫婦関係は悪化する。なぜこのような事態になってしまうのでしょうか。私は3つの要因があると考えています。