小1と4歳の子どもを育てる、子育てマーケターの森田亜矢子さんが、「日本の公教育を変えたい」という思いで、先進的な取り組みやキーパーソンを紹介する連載。前回に引き続き、「子どもを主体とした学び」について日本初のイエナプランスクール認定校・しなのイエナプランスクールこと大日向小学校の校長、桑原昌之さんに聞きます。

【前編】イエナプラン教育 主体性を引き出す意外なポイント
【後編】子どもの好奇心を育てるには親が与え過ぎないこと ←今回はココ

 今年度から小学校で全面実施されている新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という目標が掲げられています。「主体的な学び」に必要なことや、家庭で気をつけたいことはあるのでしょうか。前回に続き、大日向小学校校長の桑原昌之さんに聞きます。

 同校は、日本初のイエナプランスクールの認定校として、2019年4月に長野県佐久穂町に開校。イエナプラン教育は、ドイツで生まれ、オランダで発展したオルタナティブ教育のひとつです。子どもの個性と自立性を大切にし、異年齢のクラスの中で自分の時間割を自分で作るというユニークな学び方を実践している小学校です。

「好きに学んでいいよ」で“偏食”にならない?

―― 前回は、子どもを主体とした学びには、「学び方そのものを子どもたちに委ねること」「子どもたち同士の人間関係のベースが築かれていること」の2つが必要だと聞きました。

 学び方を子どもたちに委ねると、好きなことばかりする、いわば「偏食状態」に陥ることはないのでしょうか。

桑原校長(以下、敬称略):何をしてもよいと完全に自由にしているわけではなく、学習指導要領にのっとって年単位・月単位・週単位で、国語や算数の教科ごとの目標を「しなければならないこと」として示しています。進める順番や取り組み方は自由ですが、その「しなければならないこと」のガイドラインがあるので、ずっと計算、ずっと読書ということにはなりません。

 ただ、いきなり「しなければならないこと」を示すわけではなく、まずは自由に取り組んでもらいます。先生は、その様子を観察しながら、「どんなことに興味を持っているのか」「どうしてそれに興味を持ったのか」などを探り、その子の世界を広げていくような関わりを心がけています。

 その楽しさを知らないゆえの食わず嫌いのようなケースでも、その子が今興味を持っていることを軸にしながら、知らない世界を少し見せることで、興味の幅を広げてあげることができます。

 野菜が嫌いな子も、収穫体験に参加して自分で採った野菜は食べられることがありますよね。タイミングによっても興味や関心は変わりますから、様々な機会を提供することが大切です。

学校には子どもたちが自由に使える端末が用意されている(提供/大日向小学校)
学校には子どもたちが自由に使える端末が用意されている(提供/大日向小学校)

―― なるほど。しかし、先生が子どもたち一人ひとりの個性や状況をしっかり理解していないと、強制にならない形で、子ども自身が主体的かつ網羅的に学ぶのは難しそうですね。これまで一斉授業を行ってきた先生が、子ども主体の学び方に変えようとしたとき、ICT(情報通信技術)があると助けになりますか。

桑原:ICTを使えば、子ども一人ひとりの学習成果や課題をより把握しやすくなると思います。