世の中全体が、今まで以上に「個」を大切にする流れに

―― コロナ禍は「子どもの主体的な学び」に何か影響を与えたのでしょうか。

桑原:コロナによって、私たち大人の価値観が大きく変わったことは、追い風になるのではないかと感じます。

 これまでは、標準的な生活のスタンダードがあって、そのスタンダードに乗ればそれなりに幸せだろうというような風潮があったと思います。しかし、コロナによって、これまでの当たり前が崩れ、私たちは経験したことのない生活に直面しました。このような大きな変化の中で、生き方そのものを見直す人が増えていますよね。

 スタンダードに乗るのではなく、自分は何を大切にしたいのかを一人ひとりが考えるようになりましたし、「みんなが同じでなくてもよい」と異なる考えを認め合う風土も築かれていると感じます。

 世の中全体が、今まで以上に「個」を大切にする流れになってきているので、教育現場もきっとそうなるのではないかと思います。

「自由に好きなことをする」のは楽じゃない

―― 働く場所の制約がなくなり、地方へ移住する人も増えていると思います。通勤にかかる時間がなくなり、その時間を自分の好きなことに投資できるようになり、その結果、生活の質が高まったという話も聞きます。

桑原:自分の好きなことができるのは幸せである一方で、「選択」にはパワーが必要ですから、実は自由であることも楽ではありません。

 うちの学校の子どもたちが直面するのは、選択することの大変さです。自由であるがゆえに、何をするにも自分で考えて選択して行動をしなければならない。この連続なので、とても疲れると思います。

大日向小学校校長の桑原昌之さん
大日向小学校校長の桑原昌之さん

 ある一定の条件の中に置かれて、別の誰かが決めたルールに従っていれば安定した生活が送れるというほうがずっと楽だと思います。大人もそうですよね。決まった環境の中で粛々と仕事をこなせば、安定した給料がもらえるほうが安心する人も多いはず。

 しかし、これからの時代はそうはいかなくなりますから、自分の頭で考えて、自分が良いと思うものを軸にしながら、自分の行動を自分で選択していく力が必要になります